法律のいろは

遺言が無効かどうかが問題となるケースとは?(その⑥)

2013年5月15日 更新 

 自筆証書遺言が無効になる場合について,前回まで触れてきました。今回は,公正証書遺言が無効になる場合について,触れていきます。

 公正証書遺言とは,遺言者が遺言したいことを公証人に伝え,公証人が筆記して公正証書の形で遺言にすることです。
公証人は,法律の専門家だから,公正証書で遺言を作っておけばまず問題がないと思う方が大半ではないでしょうか?

 たしかに,公証人が専門家として,遺言の内容や遺言をする方の様子などを確認するので,無効なのではないのかが強く疑われる例は,自筆証書遺言よりは圧倒的に少ないように思われます。
そうはいっても,公証人は,遺言する方の様子をしっかり見て全部判断できるわけでもないのです。
あくまで法律の専門家であって,医学の専門家ではないからです。

公正証書遺言が無効かどうか争われる場合は

(1)遺言をする人に遺言をするだけの分別・認識する能力がなかった
(2)遺言内容を公証人に十分伝えられたとはいえない
(3)立ち合いが要求されている証人を十分立ち会わせているとはいえない

というような場合が多いのではないでしょうか。ちなみに,公正証書遺言が有効であるために必要な条件はこれだけではないです。

 ①の場合は,遺言をする方が,相当高齢な方でコミュニケーションがとりにくいとか・認知症が疑われる場合等が典型的な気がします。
この場合に,プロである公証人はちゃんと遺言する片をチェックしている要にも思えます。
 もちろん,よくチェックしている方が大半だとは思われますが,医学の専門家ではない以上,漏れがないとは言えません。


 特に,認知症は進行の程度によって症状は違いますし,個人差もあるところです。理解したように反応するけど,実際にはそうとはいえない症状の方もいると考えられますので,注意が必要なところです。改訂長谷川式簡易検査スケール(HDS-R)を受けている場合には,その点数があまりに低いか(10点を下回っている)のか20点に近いのかは,一つの重要な点ですけれども,絶対の基準ではありません。10点を下回るケースでは重度の認知症の疑いがありますが,諸事情から判断能力(遺言能力)を認めた裁判例も存在します。逆に10点を超えていても,諸事情から判断能力(遺言能力)を否定したケースも存在します。
 やはり,遺言に至る経緯が不可解であれば,ちゃんと理解判断する能力があったのか疑問が生じる場合もあります。実際の症状や年齢との関係では十分に無効になる可能性はあるところです。特に,さしたる理由もないのに,前の遺言と大きく内容が変わる場合には,リスクもありうるところです。通常は公証人およびその他関わる専門家が手当てするところかとは思われますが,絶対ではないという点は頭に入れておく必要がります。

 ちなみに,他のコラムでも触れていますが,自筆証書遺言でも保管サービスを自らの意思で使っているケース(申請に自ら赴き,申請書を書いた)という点は判断能力を考える点ではプラスに作用する場合もありえます。


 ですから,公正証書が作られたから大丈夫とは考えず,遺言する方の症状など主治医の方の話や診断書をもらって考えた方がいいように思われます。
ちゃんと,遺言したいことを公証人に伝えられたかも,遺言をする能力という(2)の話とも重なるところはでてくることもあります。(2)は口授と呼ばれるもので,公正証書遺言ではこれを行うことが必要とされていますが,判断能力が落ちているケースでは,伝えることができない・確認ができないということも通常はないように思いますが,可能性としては存在します。

 このように,公正証書の遺言でも問題が出てくるかもしれない点は注意が必要ですね。
(2)・(3)の話は次回また触れます。

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