法律のいろは

遺言で,遺留分の行使を制限してもらうことは可能?

2015年10月1日 更新 

 遺言で,特定の相続人に多く贈与したものを遺産分割の際に調整から外す方法として,持ち戻しの免除という方法があることは以前触れました。遺言がなくても,こうした意思が亡くなった方によって示されたと評価できる場合もありますが,かなり限られた場合になります。別のコラムで触れていますが,どういった場合がこのような例外にあたるのかという話をしました。また,結婚して20年経過した夫婦の間については一部例外が設けられました。

 

 それでは,同様に,遺留分の対象からこうした亡くなった方の意思の表示によって,ある特定の贈与を外すことはできるのでしょうか?結論から言えば,こうしたことは認められないと一般的に考えられています。同様のことを述べる裁判例もあるところです。このこと,遺留分という制度が,亡くなった方の特定の範囲の近親者の方の生活保障などのために,一定の範囲の財産を確保しようとしている制度という点からいえるところです。

 また,遺留分の行使やその中身に関する指定を遺言ですることも法令で認められていません。後で触れますが,持ち戻し免除に当たる,遺留分の権利行使を行使しない部分や行使した後のお金の配分を指定する(遺留分を侵害される方が複数いる場合)ような話です。

 仮に,5000万円の財産がある方がいるとします。その方に3人の子供のみが相続人となりうる方でいるとして,特定の子供に亡くなる前1年間でこの5000万円を贈与するとします。遺言も残し,その中で5000万円の持ち戻しを免除する(遺留分の権利行使できる範囲を制限する,ここでの免除の花地というのは全く遺留分の権利行使ができないという話になります。)という内容を入れたとします。この場合に,持ち戻しの免除(遺留分の権利行使ができる範囲の制限)によって遺留分の制限をできるとしてしまうと,せっかく遺留分という名前で一定の範囲の財産を確保させようとした意味が失われてしまします。こうしたことから,持ち戻し免除の意思表示(遺留分の権利行使ができる部分の制限)を遺言でしても,遺留分には影響を与えないと考えられています。同様に行使できる範囲は法廷の内容であっても,配分を遺留分の侵害されている子供二人で3:1とせよと遺言で決めることもできません。

 

 ただし,生前贈与を何度か行い,遺産となりそうな残った財産で遺留分を侵害するという可能性がない場合には,遺産分割での調整をなくすためにその意思を遺言で残すことには大きな意味があります。持ち戻し免除の意思(通常通り特別受益による遺産分割における調整をしないという意味)があったかどうかが問題になった場合には,そうした点が大きな争点となりトラブルとなる可能性があります。特定の相続人にある財産を確保しつつ,一定の範囲の財産を得させようと考えるのであれば,遺言等ではっきりとした形で残しておいた方がいいように思われます。

 遺留分の侵害になるかどうかを考えるうえで考慮に入れる生前贈与の範囲については一部相続に関する法改正で変更が加えられています。少しわかりにくい点はありますが,特別受益(生計の資本のための贈与)についても考慮に入れる形にはなりますが,遺産分割の際(ここでは特に機嫌の制限はなく過去にさかのぼる)の場面とは異なります。相続開始前10年以内の生前贈与であれば考慮されるのが原則で,ここでの贈与(ここでは相続人に対するものに限定します)は特別受益(結婚や養子縁組その他生計の資本の贈与)の範囲で考慮されます。ただし,生前贈与のスキームを使い遺留分の侵害が起きることを贈与側・もらう側が認識しているケースでは10年を超えて考慮されます。どういった場合が考慮されるのか一見して分かりにくいところではありますが,例えば生活に全く関わらない贈与ということであれば考慮の対象外です。10年を超えての贈与は当時に遺留分を侵害する内容ではなかったが,その後亡くなった方の財産変動で相続開始時には結果として遺留分侵害に当たるケースでも同様に考慮の対象外になります。詳細は別のコラムでも触れたいと思います。

メールフォームもしくはお電話で、お問い合わせ・相談日時の予約をお願いします

早くから弁護士のサポートを得ることで、解決できることがたくさんあります。後悔しないためにも、1人で悩まず、お気軽にご相談下さい。誠実に対応させていただきます。