法律のいろは

養子縁組が無効になる場合とは(その⑥もっぱら節税目的のための養子縁組の有効性)?

2017年2月1日 更新 

 昨日,相続税の基礎控除分を増やす(相続税を減らす目的)ことを目指した養子縁組について,ある一定の事実関係の下で有効とする判断を最高裁が示しました。今回はこの裁判例について触れてみます。

 

 問題となったのは,こうした税金を減らすことを目的とした養子縁組に,法律で要求される親子関係を作る意思が存在するといえるかという点でした。実際のケースでは,亡くなった方にいる子供たちが,養子縁組をした孫に対して養子縁組が無効であることの確認を求めた裁判の模様です。判断の記載からすると,税理士の方から相続税の負担を減らすほかに死亡保険の非課税枠を使うことができるためというアドバイスがあり,それに従ったもののようです。このケースでは被相続人の孫を養子とした縁組についての無効の確認を,相続人(被相続人の子の一部)が求めたようです。重要なことは「もっぱら相続税の節税目的でも,直ちに縁組意思がないとき」には当たらないとしている点です。このケースでは,判決文から見ると,養親になった方には養子縁組の際に傷病により判断能力が落ちていたという事情がないという点があります。養子縁組と矛盾する言動もあったようですが,養親が縁組届を認識して自ら署名し届け出をしたと第1審では認定されています。第2審では,昔ながらの「家を継ぐ」という点が養子縁組の動機として存在するのかどうか・養親と養親の不仲や養子縁組との矛盾言動を考慮しています。

 少なくともこのケースでは,養親に判断能力低下という事情はなかった点は一貫した認定であったと考えられます。養子縁組と矛盾する後の言動があっても,自らの意思で縁組の署名と認識をしていたという事情が存在します。また,後に不仲になったという事情をどう考慮するのかという話はありますが,裁判例で言われる親子関係を作り交流する意思を覆すほどではなかった(もっぱら節税を目的としても,こうした意思を認められるケースであった)といえるものと思われます。最高裁の判断では,節税目的と他の意思は共存すると述べているところからすると,親子としての交流が全くうかがわれない(親子としての精神的な結びつきを作ろうとする意志が縁組当時認められなかった)ケースでは無効になる可能性があります。少なくとも,孫を養子縁組する場合で,孫も含めて直接に交流のあるケースでは,後に不仲になっても縁組当時の意思を当然には否定することはそこまではないように考えられます。節税はこうしたケースでは動機に過ぎず,判断能力に問題があるケースとは同様には言えないところもあるのでしょう。

 

 前提が少しわかりにくいですが,相続税には基礎控除と呼ばれるものが存在します。これは,基礎控除とされる金額を相続財産が越えなければ相続税がかからないという制度になります。おととしに制度代わり,基礎控除の対象となる部分は減りました(相続税が課税される場合が増えることになります)が,相続人の数に応じてこの基礎控除が増える点に特徴があります。

 現在では,基礎控除は,3000万円+600万円×相続人の数,になります。養子縁組をすれば養子は養親の相続人になりますが,無制限に養子縁組をすることで簡単に節税をしつくせかねません。実際には基礎控除が認められる養子の範囲には上限があります。また,亜課税価格減少などにつながツ養子縁組には税務面では効力を否定される可能性もありますので,注意が必要でしょう。なお,このほか相続税には軽減規定がありますが,ここでは話を省略します。

 

 このように,相続人の数が増えれば相続税の基礎控除は増えますが,一方で遺言がない場合には他の相続人の取り分は減ります。ちなみに,このケースで問題となった孫は,養子縁組をしないと,自分の親が生きている場合には相続人にはなりません。養子縁組によってはじめて相続人になります(自分の実親が亡くなった場合には少し話がかわります)。

 

 こうした前提の話がありますが,裁判では第2審でこうした節税目的の養子縁組は,法律で要求される親子関係を作る意思があるとは言えないとして,無効であると判断しています。この判断によれば,その分基礎控除は減りますが,相続分にも影響する可能性が出てきます。これに対して,最高裁の判断では,この判断を覆して,養子縁組は有効と判断しています(第1審でも有効としていますが,縁組の届出意思があるからという話で記載しています)。

 

 その判断の中で,節税目的と法律で世給される親子関係を作る意思は共存しうるものであること・あくまでも節税目的は動機にすぎないから,ということが述べられています。ただし,あくまでも,共存しうるものであることから,もっぱら節税目的でなされた養子縁組でも直ちに無効にはならないと判断されている点には注意が必要でしょう。事実関係によっては,有効性に影響する場合もあり得るという話になります。縁組をして親子関係を作っていく意思があるとは言いにくいだけの事情が窺われないことから,影響はないとの話が判断で述べられています。こうした事情がある場合には影響がありうる点には注意が必要でしょう。

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