法律のいろは

遺留分の意味と計算をするに際しての注意点(その③)

2015年9月9日 更新 

 前回,遺留分の意義などについて触れていきました。今回は,実際遺留分が侵害されているのかどうかをどう考えていくのかという話について,ある程度触れていきます。

 前回も触れましたが,遺留分が問題になるのは,こうした法律で確保させようとしている部分の確保を妨げるような贈与などがあっての話となります。そのため,まずは,そうした贈与などが存在するかどうかが大きな問題となっていきます。遺言で行う贈与である遺贈や生前に行う契約であり死亡時に贈与を行うという死因贈与契約は対象となります。いわゆる生前贈与については,令和元年7月以降の相続では一部変更があるところです。

 

 相続人以外に対する贈与については,原則は相続開始前1年以内になされた贈与です。ただし,相続開始1年よりも前になされた贈与でも,贈与した側と贈与を受けた側が,その贈与が贈与時点で遺留分を侵害する内容となることを認識していた場合には,遺留分侵害請求の対象となります。ここで,自らの財産内容を知っていることが普通である贈与側は金額面で見て遺留分侵害になるだろう事実関係は知っていることが多いと思われます。贈与を受ける側が知っているかどうかという話になりますが,贈与する方の財産状況を詳しく知っているケースでは該当する可能性は十分あります。

 これに対して,相続人に対する贈与についてはややわかりにくい形ですが,改正がなされています。改正前は特にいつされた生前贈与かにかかわらず特別受益に当たる贈与であれば,遺留分侵害請求を考えるうえでの対象となっていました。改正により,原則は相続開始前10年以内になされた特別受益に当たる贈与(生計の資本のための贈与に当たると考えられる部分)のみが,遺留分侵害になるかどうかの計算で考慮されます。例外として,相続開始前10年を超えての贈与であっても,贈与をする側と受ける側双方が遺留分侵害になるだろう事実関係を知っていれば,遺留分侵害を考える上での計算対象になります。

 生前贈与を使っての事業引き継ぎ(事業承継)やその他の財産引継ぎをさせる場合には,財産関係や負債の調査を行うことになるため,特に相続人の意向確認をしている場合には,ここでいう例外に当たる可能性が出てきます。10年という点についても相続開始がいつになるのかは人の生死という偶然の事情により変わるものですから,生前贈与を行う際に遺留分侵害の可能性があるのであれば,遺留分侵害対応についても考えておく必要があるでしょう。

 

 相続開始後に結果として遺留分侵害になる生前贈与が存在するとしても,贈与時点の財産や負債の状況によってはそうはならないケースもありますし,贈与をする方との関係によっては贈与を受ける側の認識がない場合もありえます。遺留分侵害を考える上では,相続開始時点での金額で評価したうえで遺留分侵害になるのかどうかを考えることになります。贈与した財産もその後の価値変動があるところです。

 遺留分の侵害があるのかどうかを計算するにあたっては,以下の計算式によって考えることになります。

 相続開始時点で存在する財産(遺贈される財産を含む)+生前贈与で対象となる財産ー亡くなった方の債務の金額⇒基礎財産

 

 この基礎財産に対して,遺留分の権利を持つ方の各遺留分率をかけて,それぞれの方の遺留分額を導き出します。そのうえで,各権利者について自分がもらった特別受益となる生前贈与の金額・遺贈の金額,遺産分割で取得するべき具体的な相続分の額を遺留分額から引いて,各権利者が負担することになる被相続人の負債の金額を足します。この計算で出てくるのが遺留分侵害額になります。

 これは遺留分で確保するべき金額を計算し,そこから権利者について自らが受ける生前贈与や遺贈・遺産分割で確保する取り分があれば,実際に確保されているのだから侵害されていない,亡くなった方の負債(マイナスの財産)を負担する際には,その点を反映させるという考え方になります。ここがプラスになれば,遺留分侵害をされていることになるため,その原因となる方に対して,遺留分侵害請求を行うことになります。

 

 ややわかりにくいので具体例を使って考えていきます。Aさんには,配偶者Bさんと子供CさんとDさんがいます。Aさんは,5年前にCの子育てなどの援助のために1500万円を贈与しています。亡くなった際には4000万円に預金での遺産がありましたが,このすべてをBさんに遺贈するという遺言が存在します。

 このケースでは,遺留分の率は1/2が全体であり,Bさん・Cさん・Dさんは各自が法定相続分(2:1:1)でその内容を取得します。言い換えると,各自の遺留分率は1/4・1/8・1/8となります。

 基礎財産は,(1500万円+4000万円)=5500万円

 遺留分として確保されるべき金額は,Bさん:1375万円(=5500万円×1/4)

                  CさんとDさん:各自687万5000円(5500万円×1/8)

 遺留分侵害額は Bさん:0円(1375万円ー4000万円=-2625万円)

         Cさん:0円(687万5000円ー1500万円=-812万5000円)

         Dさん:687万5000円

 として,Dさんには遺留分侵害額が存在するので,BさんやCさんに対して,法定の期限内に遺留分侵害請求を行うのであれば行う必要が出てきます。このケースでは被相続人の負債の引継ぎの話は出てこなかったので触れていません。

 

 この計算をするに関しては,今のケースでは出てこなかった負債の差し引きに関する問題や全体としての財産と負債の合計がマイナスになる場合・つり合いが全く取れない金額での買取の場合の対応などの問題があります。これらについては別のコラムで詳しく触れたいと思います。

                         

 


 

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