法律のいろは

相続対策で,相続の前に遺留分を放棄してもらうことはできるでしょうか?

2015年9月20日 更新 

 相続対策という事で,税金対策とともに,特定の方に相続罪s何を集中させたいという希望はあるのではないでしょうか?遺言を書くことで,相続財産をある特定の相続人に引き継がせることはできます。以前も触れましたが,「全財産を○○に相続させる」等を書く方法が考えられます。

 一定の範囲の相続人の方には遺留分という権利が法律上認められています。どのようなものかは以前触れましたが,簡単に言えば,一定の近親の親族に生活の保障などの目的から,一定割合の財産を取得させるようにしようという制度です。この権利を実際に使うかどうかが問題になるのは,相続が始まってから,つまり,財産を残す方が亡くなってからになります。残す方にとっては遺留分を実際に使うかどうかは生前には分かりません。

 もちろん,相続がはじまってから,法律で定められた期間の間に遺留分を行使しないと,法律上この権利を使うことはできなくなります。そうはいっても,権利を行使するかどうかは,その相続人次第ですから確定はしません。一つの方法として,遺留分に該当しそうな財産をその相続人に残しておく・全財産を受け取る方に遺留分に相当する支払いのためのお金を準備しておくという事が挙げられます。後者については生命保険などの死亡保険金を使うのも一つの方法でしょう。これらの方法は,この財産が遺産には入らないことや遺留分侵害の対象に基本的には入らないこと・相続税の課税対象ではありますが,非課税部分も存在することから有効性は相応にはあります。

 

 この方法以外に,その遺留分の権利を持つ方自身にご自身の生前に遺留分を放棄してもらえれば,確実にはなります。しかし,法律上相続が始まる前の遺留分を放棄することは厳しく規制されています。家庭裁判所の許可が要求されています。これは,無理に放棄させられてはせっかく確保しようとした法律の定めが無意味になるからという事での規制です。ですから,許可もそう簡単には出るものではありません。そもそも,その権利を持つ方が何もなく同意をすることも考えにくいという面もあります。

 許可が認められるかどうかにあたっては,厳密な基準は法律上は定められていません。放棄をする方に圧力が加わってのものでないか・事前に放棄をするだけの正当な理由が存在するかどうか・放棄と引き換えに何かしらの財産などを得ているのかどうか等の事情が考慮される傾向にあります。ちなみに,遺留分減殺請求権も法改正により遺留分侵害請求権として,お金の支払いを求める権利に変わりました。これによって自宅や事業用資産や会社株式を共有にされることはなくなりました。そのため,放棄をしてもらう必要がない場合も出てくるでしょうけれども,こうした財産の価値が増えることが見込まれる場合には放棄の意味が出てくる場合もあります。ただし,許可を得ようとすれば,こうした考慮される事情をクリアーできるだけの準備が必要になります。

 ちなみに,遺留分の放棄は相続放棄とは異なります。遺留分を放棄しても相続人ではありますので,相続が開始すれば相続をすることになります。その際にマイナスの財産しか被相続人にない場合には夫妻負担のみ生じるということにもなりかねませんので,注意が必要です。もともとマイナスのみというのであれば,相続放棄だけをすればいいという話になるでしょう。

 

 ここでいう事前放棄以外にも,個人事業主の方や中小企業では,事業の引継ぎ(事業用資産や株式の譲渡)について,民法の特例が存在しています。ここでは詳しくは触れませんが,引継ぎをする後継者の方が確実に引継ぎをし譲渡を受けることを前提に,事業用資産や株式を遺留分の計算対象から外す(除外合意)や合意をした時点での金額で遺留分侵害になるかどうかを考えるようにする(固定合意)というものが存在します。これらの合意自体組み合わせることもでき,他の生前対策(税務法務の対策が必要になります。ことに事業承継税制(贈与税や相続税の納税猶予・原則型と特例型が存在します)の活用もできるのか等検討が必要です)も含めて考える必要が出てきます。

 ここでの合意は後継者となる方と遺留分を持つ相続人全員で行う必要があります。裁判所の許可や掲載産業大臣の確認などのチェックが入ります。事前放棄との違いは,こちらは各自で遺留分の権利を持つ相続人が放棄をするという形であるという点と放棄と合意の性質の違いになります。

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