法律のいろは

自筆証書遺言で遺言が撤回されたことが問題となったケース

2015年12月31日 更新 

 前回,法律上遺言が撤回されたと考えられる場合についてある程度触れました。今回はその続きです。こうした撤回にあたるかどうかが問題となる裁判例が先日最高裁で出ましたので,判決文からわかる範囲で紹介をしたいと思います。

 問題となったケースは,亡くなった方が自ら作成した遺言(自筆証書遺言)について,亡くなった際に,その方が遺言が書かれている方の右上から左下まで赤色のボールペンで斜線を一本引いていたことが,遺言の撤回にあたるかどうかが争われたケースです。遺言が撤回されたと評価できれば,その遺言は無効となりますので,遺言の有効性が争われている裁判で争点となったものと思われます。

 このケースで問題となったのは,撤回扱いになるものの一つである「破棄」に当たるかどうかです。ここでいう破棄とは,一般には遺言書を物理的に捨てる・破くなどの壊す行為,文面を抹消する行為や日付を消して判読できないようにする行為が該当すると考えられています。斜線が引いてあっても判読できる場合には破棄といえないのではないかというのがここでの問題です。

 

 この斜線が遺言をした方が自分の意思で行っていないのでなければ,そもそも撤回が問題となりません。第2審の判断を覆した最高裁も第2審と同じく,斜線自体は遺言をした方が自分の意思で行ったことを前提に判断しています。そもそも,こうした自分の意思で行ったかどうか自体が争いになるケースも十分にありうるところと考えられ,この場合は事実面での問題が大きくなるでしょう。

 第2審の判断は,斜線が引かれても元の文字が判読できるのだから,撤回と評価できる【破棄】した場合にあたらないと述べて,撤回していないものとしています。これに対して,最高裁は,遺言が書かれた紙全体にわたって赤色のボールペンで斜線を引くことの想定される遺言をされた方の意思から判断しています。それは,通常こうした事柄の持つ意味として,遺言書全体の意味を失わせることであると捉えて,破棄したものと考えて撤回を認めています。つまり,遺言は無効になったと判断をしています、

 あくまでも,紙全体に赤色斜線が引かれているケースに関してのものですから,仮に一部だったらどうなるのか・赤以外のボールペンだったらどうなるのかまでは直ちには言えません。このケースでは破棄に当たるのかどうかを文面での記載の一般的な意味内容から読み取っています。一部のみの斜線や二重線で消して判読できる別の記載がある場合などには,撤回ではなく訂正や変更の問題(こちらは,自筆証書遺言である限り,有効な訂正や変更であるためには訂正や加除をしたとの記載や押印・訂正や加除した内容を定められたとおりする必要があるなど有効であるためのハードルが存在します)となる可能性もあります。

 こうした点を後で問題にならないようにするとすれば,自筆証書遺言について明確にどうなるのかの見通しをたてて変更などを行う・自筆証書だけでなく公正証書で遺言をつくり変更する場合も,公正証書遺言を作っておいてはっきりさせておくという対応も考えられます。

 

メールフォームもしくはお電話で、お問い合わせ・相談日時の予約をお願いします

早くから弁護士のサポートを得ることで、解決できることがたくさんあります。後悔しないためにも、1人で悩まず、お気軽にご相談下さい。誠実に対応させていただきます。