法律のいろは

養子縁組が無効になる場合とは(その⑤裁判例で考慮されているだろう要素)

2016年6月27日 更新 

 養子縁組が無効になる場合について,近年の裁判例の話や無効になった場合の影響をこれまで触れてきました。今回はその補足の話に触れたいと思います。

 

 前々回に触れましたように,養子縁組をした際に縁組をする意思があったといえるのかどうかが問題になることが多いように思われます。相続が問題になるケースであれば,養親となる方の健康状況や認識状況からみて,そうした養子縁組をする意思があったと法律的に評価できるのかどうかという話になります。

 

 そういう意思があったといえるかどうかは,縁組をする動機があったのかどうか等様々な点を踏まえての話になりますが,この証拠があれば決まるという単純なものではありません。多くの状況証拠から見てどのようなことが言えるのだろうかという話が多いでしょう。前回触れた裁判例においては,養子縁組届けに養親となる高齢の方の署名などがあったのかどうかが問題になっていました。

 

 養親本人が署名していないことは本人の意思に基づいていないかもしれない根拠の一つになるかもしれませんが,裁判例上,第3者が代筆して本人が承諾していれば,本人の意思に基づくものと評価されます。そのため,養親本人の署名があったかどうかだけで決定的な縁組意思がなかったということになるとは限りません。あくまでも,当時の本人の健康状態や動機・署名をしたとされる時期の出来事などの他の事情から,縁組をする意思があったといえるか・承諾をしたといえるのかどうかが重要な事柄になってくると思われます。

 別の機会に承諾したとはいいがたい場合には署名がないことは意味はありますが,どの場合に・何が・どのような意味を持つのかはケースごとの事情により異なってくるといえます。そのため,これがあったから大丈夫という単純な話ではなく,場合によっては専門家に相談をした方がいいでしょう。

 本人の署名であるかどうかは記載事項の証明書を取り寄せて,本人の筆跡であるのかどうかという調査をする方法があります。ただ,先ほどの話にもあるように,ケースごとで様々重要なポイントは変わる点には注意が必要です。

 

 また,<縁組やその届け出までの経緯が異常であること(先ほどの署名が本人でないこともその一つですが,養親本人の言動や届け出に至った話の流れなども入ります)のも判断能力が落ちたといえる高齢の養親の場合には重要視されているようです。こうしたことがうかがわれる場合には,それを覆すだけの客観的な事情を要求する裁判例が存在します。

 また,裁判例の中には,①養親の認知症などの状況や症状②養親と養子の交流関係③今法律上の親子関係を作る理由やその内容④養親の財産管理めぐる紛争の有無や養子縁組による相続分への影響の程度⑤紛争防止のための配慮をしたのかどうか⑥養親が養子縁組に重大な利害関係を持つ方に相談をしたのかどうか,などを考慮して判断するとしたものがあります。財産管理をめぐるトラブルや相続分への影響が大きい一方で,特に親子関係を作る理由がなく,交流もない方との養子縁組である,といったことが養親となる方の健康状況が悪化した場面であれば,養親の方にどこまで判断ができたのか(他の方の意向が強く介在したのか)などが大きく問題となってきかねません。  

 他方で,養子縁組をするうえで必要な判断能力に潰えその内容ははっきりしませんが,裁判例の中には,高度なものである必要はなく,法律上の親子関係を作ることの意義を理解していれば足りると述べるものがあります。この理解を前提にしても,意義の理解がどこまでなのか(相続や不要という法律上の義務や権利が生じうるという話で足りるのか,親子関係形成の意味や交流が必要ということも含むのか)によってどこまでが必要なのかは分かりません。ただし,親子としての交流や精神的なつながりを作ることお要求する裁判例が多く存在することから,抽象的な面はありますが,法律上の意味合いや交流することの意味を理解できる程度の能力は必要ではないかと思われます。実際の裁判例では細かく認知症等の傷病の特性に応じた判断を事実関係から判断していますので,問題となったケースからリスクを把握していくことになるでしょう。

 

 こうした高齢の方が養子縁組をしたケースではそこまでないでしょうが,裁判例上は,当初養親本人の意思に反した養子縁組届がなされていても,後で同意をした場合には養子縁組は有効になるとされています。そのため,こういった言い分が養子縁組を有効という方から出てきた場合には,その根拠となる事情や証拠があるのかどうかという吟味が重要になってきます。

メールフォームもしくはお電話で、お問い合わせ・相談日時の予約をお願いします

早くから弁護士のサポートを得ることで、解決できることがたくさんあります。後悔しないためにも、1人で悩まず、お気軽にご相談下さい。誠実に対応させていただきます。