法律のいろは

亡くなった方から生前に贈与を受けた相続人が相続放棄をした場合に,この贈与はどうなるのでしょうか?

2016年8月10日 更新 

 亡くなった方から,その方の生前に贈与を受けた相続人がいた場合は,遺産分割の話では,調整が必要になるのが普通です。特別受益と呼ばれるものですが,遺言で調整しないように等の意思を亡くなった方が示していない限りはなされることになります。このことは,贈与を受けた相続人の方が相続放棄をした場合にも同じようになるのでしょうか?

 

 回答としては,同じようにはならず調整の対象とはなりません。そもそも,相続放棄とは法律上一定の期間内に家庭裁判所に対して手続きをとることで初めから相続人ではなかったという扱いのなされるものです。ここでいう贈与は生前贈与ですから,相続放棄によって初めから相続人ではなかったという扱いがなされたとしても,効力に影響は受けません。

 

 そして,特別受益と呼ばれる贈与を受けた分の調整は相続人の間での遺産分割協議の中で,調整要素として法律上認められた制度になります、そのため,相続人ではない方との間では調整要素は生じないことになります。それでは,高額な財産の贈与(特に遺産の中の大半)がなされた場合に,相続人側からなないかしらの対応をとることはできないのでしょうか?

 

 結論から言えば,遺留分を持つ相続人(配偶者や親と子供ら)には対応をとることができる場合があります。これは遺留分という権利を侵害するような贈与があり,その他法律の定める前提を満たした場合には遺留分侵害(減殺)請求権という権利を行使することができ,この権利によって対応をするというものです。ただし,そのためには遺留分を侵害するような贈与がないといけませんし,権利を行使できる期間が法律で定まっている点にも注意が必要でしょう。

 法改正前は,相続人であった方には期間制限がない・(特別受益)に該当すればいつまでも可能でしたが,改正により10年前まで(相続開始から)が原則となりました。相続人以外には相続開始前1年間が原則ですが,いずれの場合も贈与の時点で贈与を受ける側も遺留分侵害になるだろうなくなった方の財産状況であることなどを認識していた場合には,期間制限はなくなります。認識は主観的なものですが,人間関係ややり取り・その他記録などから考えていくことになるでしょう。そして,相続放棄をした方は最初から相続人ではなかったという扱いになりますから,ここでは相続人ではない方への期間がどうかがポイントになってきます。

 

 たとえば,亡くなった方の相続人が子供2人しかいない場合に,10か月前に子供のうちの一人に2000万円の生前贈与をしていた(ただし,相続放棄を行った)というケースで考えてみましょう。この場合に遺産が500万円しかないような場合には,遺留分の侵害がありますので,期間の制限内であれば,遺留分を侵害する限りで,遺留分減殺請求権の行使をすることができるでしょう。

 ここでは単純なケースを取り上げましたが,亡くなった方の生前1年以上前になされた贈与については,遺留分を侵害することの認識があったことが必要になります。先ほども述べたように,相続放棄によって最初から相続人ではなくなるためです。

 

 このように,遺産分割協議では考慮が難しく,遺留分の問題としてどうなるかを考えていくことになります。

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