法律のいろは

遺産分割の話し合いの際に行う「相続分」の譲渡は,遺留分との関係でどのように考えられるのでしょうか?

2018年10月31日 更新 

遺産の分け方については以前には遺言・亡くなった後には遺産分割協議という話し合いで決着をつける形になるのが通常です。資産のある方・会社をしている方が継承を考える場合にもこうした方法を使うことになります。ここで問題となるのは,「遺留分」と呼ばれる権利です。事業承継の場合など一部には例外的な手続きもあるものの,保険の事前活用などをしないと面倒なのが,この権利です。
 今回は最近出てきた最高裁の判断を踏まえて,少し触れていきます。

 

〇遺留分とは?
 簡単に言えば,配偶者や子供という一定の親族(兄弟や親にはない点に注意)の生活保障のために,遺言での侵害できない取り分ということができます。つまり,いくら遺言で対策をしても基本的にはこの遺留分の対応には限界が出てきます。例えば,遺言ですべての財産を特定の子供に与える場合に,これではほかの子供の遺留分による取り分を侵害するため,後で取り戻しができるというのが面倒な点になります。
 誤解がないように触れておきますが,法律で定められる一定の期間内に遺留分による取戻しの権利を使わない場合には,遺留分による権利の主張はできなくなります。

 今回触れる裁判例との関係では,生前に行われた贈与がこうした遺留分の侵害を考えるうえで法律上考慮されるという点が問題になります。わかりやすく言えば,遺留分を計算する際には
 亡くなった時に亡くなった方が持っていた財産―借金や負債+生前に贈与した金額(ただし,すべてが対象となるわけではありません)をベースに,確保されるべき遺留分の割合を基に,確保される額を考えていきます。遺言などによって,この確保される額が確保されない部分が出てくれば,それが遺留分が侵害される部分ということになり,その部分の取り戻しを図るのが先ほど触れました遺留分の取り戻しの権利を使うということになります。差し引かれるべき負債や生前贈与の対象については別のコラムで詳しく触れています。
 こうした計算式になるのは生前贈与によって生活保障として確保されるべき遺留分に基づく取り分が確保されなくなる事態を防ぐという意味があります。ここに対する対策は事業承継のための法律の特例を使う・保険金を使って(税金上は相続税の対象となる部分があります)支払いに備えるというものが代表例として考えられます。

 

〇相続分の譲渡とは?
 相続分の譲渡とは,一般的な話かつ簡単に言えば,遺産分割協議をする際に自分は関わりたくないという方が一部入れば,その方たちがプラスマイナスを含めた相続分を他の相続人に譲渡するものということができます。
 プラスマイナスを含めますから,大きいプラスの金額の場合もあればマイナスの金額の場合もありえます。相続人全員で話し合いがすぐ解決するのであれば協議をして書類にまとめれば特に問題がありませんが,一部の方の間で話し合いがつかないものの,自分は関わりたくないというのであれば,この制度の意味は大きくなります。
 主には家庭裁判所での調停などの手続きに至った場合に,関わりたくないという一部の方が特定の相続人に相続分を譲渡する形で使うことがあります。遺産分割協議で話が解決する場合には,自らは何も取得をしないという形での話に署名をすることで解決をはかる場合もありえます。

 

〇最近の裁判例で問題となったケース
 最近の裁判例で問題となったのは,まさしくこの「相続分の譲渡」が遺留分に関する計算をする「生前の贈与」に含まれるのかという点です。問題となったケースは簡単に言うと次の通りです。

 夫婦と子供3人がいる家族で問題となっています。夫婦の一方が亡くなり,その遺産分割に関する手続きの中で子供の一人と夫婦で生存していた側が,特定の子供一人に相続分を譲渡して手続きから抜けました。その後親にあたる夫婦で生存していた側が遺言で相続分を譲った子供にすべての財産を残すという遺言をしていたというケースです。ちなみに,その後遺言をした・相続分を譲渡した親が亡くなっています。

 このケースで,相続分の譲渡に関わっていない子供の側が,相続分の譲渡をした親の相続手続きで,遺留分に基づく権利の行使を行いました。その手続きの中で,相続分の譲渡が生前贈与として遺留分侵害のもとを考えるうえで加えるかどうかが争点になったものです。

 これだけだと少しわかりにくいですが,こうした点が問題になるのは,結局相続分の譲渡を行った際の遺産相続における財産が多い場合が想定されます。というのも,マイナスしかない・マイナスも考えると大したお金がないというのではわざわざ後で問題とする意味がないからです。
 ここでの考え方として,
① 相続分はプラスマイナス双方あるもので必ずしも財産ではない
② 相続分もマイナスあるいはほぼ通算してお金がない場合以外は価値のある財産である
という考え方のどちらをとるかによって考え方が変わってきます。結論から言えば,最高裁は②の考え方をとり,相続分を譲渡した場合には遺留分の話における生前贈与に含めるとしています。②のように言える点として,相続分によってプラスの財産を共有した形になり,遺産分割協議によってプラス部分の財産の配分を受けることになるため,価値のある財産であるのが原則となります。例外的にマイナス部分を通算してほぼ財産価値がない場合には,この話が当てはまらない(相続放棄をするかどうかも問題になりえます)ため話が変わるだろうというのがここでの大まかな理屈といえます。

 親の一方が亡くなり,その後遺産分割の話をする・せずに他方の親が亡くなるで話を置いておく,双方の場合がありうるところです。このうち,今回の話は前者のケースで,後の親の相続で問題となる点を明らかにしたものと言えます。あまり縁起でもない話かもしれませんが,後々のトラブルを防ぐための参考になろうかと思われます。
 こうした問題も考慮して備えをしておきたいものですね。

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