法律のいろは

亡くなった方に大きな借金があることが分かったら(その②)

2015年7月2日 更新 

 相当以前に,亡くなった方に大きな借金があった場合にどうなるかという事で,普通の負債や保証人として負った債務等について触れました。こうした負債(借金)は,遺産分割で家庭裁判所の判断がなされる場合には,その対象にはならない点には注意が必要です。これは,裁判例上遺産分割とはプラスの財産の分割を言うとされ,マイナス部分(つまり負債)については法律上当然に法定相続分に応じて分割されるものと判断されているためです。もちろん,相続人の間で合意をすることによる負担する部分を変更することはできますし,遺言で指定をすることもできます。この場合には亡くなった方の債権者にはそのことを主張できないのが原則(相続分とは異なるという話を知っていれば話は別)になります。そのため,負債しかなくその負担を決めるために遺産分割調停を使うことはできません(親族間の対立を調整するための話し合いということであれば別ですが,いずれにしても遺産分割調停ではありません)。  保証人としての負担は特に家賃などの継続的に支払い義務が発生するタイプのについては,亡くなった方の生前に生じていた部分のみが相続の対象となります。

 今回は,こうした借金がある場合にどうするのかという事について触れていきます。借金があることに気付くケースとしては,いくつか考えられますが,大きくいって,なくなる方の生前あるいは亡くなったころに借金の存在が明らかであるケースと,死後相当時間が経過してから借金の存在が明らかになるケースが考えられます。

 このうち,今回は前者の話について述べたいと思います。こうした場合に,残された家族(法律上相続人であることを前提とします)にとっては,そうした借金を引き継がなければいけないのかが大きな関心事になってくるのではないでしょうか?借金を引き継ぐか引き継がないかは大きな話ですが,借金だけ引き継がず財産だけ引き継ぐというのは,法律の制度上は困難であり,基本的には財産も負債も引き継がない選択をするかどうかという事が問題となります。

 こうした制度として,相続放棄という制度があります。また,一部だけ相続をし,その範囲内で負債も負う限定承認という制度もあります。実際に多く使われている制度は相続放棄という制度で,亡くなった方について相続があったことを知ってから3か月以内に,家庭裁判所に申立(申述と呼ばれます)を行う必要があります。ここでポイントとなるのは,亡くなってから3か月ではなく,相続があったことを知ってから3か月以内であるという点(遺産が多数あるなど相続放棄をするかどうかの検討に時間を要する場合には,家庭裁判所に申し立てて期間を延ばすよう求めることも可能)です。もちろん,これについては例外もあるのですが,特に生前疎遠であるけれども相続人である場合には,大きくポイントとなってくるところです。この期間内に手続きを取らない場合には,借金も含めて相続する可能性が極めて高くなります。そうした場合には別の対応を考える必要が出てきます。限定承認については税務上の注意点もありますし,後の対応も面倒になります。この制度の活用場面もありますが,プラス部分に引き継ぐ意味があるのかなどを考えて活用するのかどうかを決める必要があります。

 相続放棄をすると,相続人ではなかったことになりますので,その相続する部分は他の相続人が引き継ぐことになります。ただ,財産も有るけど,借金が相当上回っているような場合には,普通はその他の相続人も相続放棄をすることが多いと思われます。ちなみに,全相続人が相続放棄を選んだ場合には,相続人がいない状況になります。ちなみに,一部の相続人が相続放棄をしても相続税の計算上は基礎控除に影響しません(言い換えると,相続人の人数計算に含められる)。

 次回に続きます。

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