法律のいろは

相続と口座からのお金の引き出し(その⑥)

2015年8月10日 更新 

 今回は前回までと少し異なり,口座からの引き出しが問題となるいわゆる「使途不明金」の話について触れておきます。こうした「使途不明金」の話は相続(遺産分割)の話の中で問題となることがありますが,これまで触れてきたような,亡くなった方の口座から不可解なお金の引き出しがあるというケースの他に,「あるはずのお金がない」というケースも考えられます。

 それは,亡くなった方の収入状況(毎月あるいは年金であれば2カ月に一回の収入等)があり,生活費がこの程度の金額だから,これだけのお金があるはずなのに存在しない,差額のお金はどこに行ったのだという内容のものです。一番はこうしたことにならないように収支の明細を残していればいいのですが,親子関係等そうしたことがなくても大丈夫だろうという意識はそこそこあるのではないかと思われます。

 こうした場合に,使途不明金と言われても,問題となる行為(使途不明金を生んだ行為)が分からなければ,袋小路に入り込むという問題が出てきます。こうした点についての追及はしたいと思うところはあろうかと考えられますが,特に遺産分割の話し合い(家庭裁判所での調停を含む)では解決が難しくなってくる点があるのには注意が必要です。本来,こうした使途不明金の問題の解決は遺産分割調停ですることではありません。亡くなった方の財産を管理していた方(家族を想定しています)に細かい収支の説明を求めることには,限界もあるところです。

 これに対し,これまで触れてきた口座からのお金の引き出しの話については,そうした説明を求める対象ははっきりしています。ただし,これまでも触れましたように,問題となるのは生活状況やその他からみて「通常考えられない」お金の引き出しであるという点です。また,こうした引き出しについて,亡くなった方のための費用や贈与という説明がなされることもありますが,無断引出ゆえに損害賠償請求の対象になると考える場合には,時効の問題も出てくる点には注意が必要です。
 ここでいう時効とは,損害賠償の請求は,「請求者など」が「加害者」と「損害」を知ってから3年が経過すると,請求を受けた側が時効の主張をすれば,損害賠償が認められなくなるという話です。こちらは亡くなった方の財産権侵害を理由とするものです。もう一つ請求の根拠はあり,こちらは理由のないお金の引き出しにより,相手が利益を亡くなられた方が損失を被ったからその調整を求める(不当利得返還請求と呼ばれるもの)です。こちらについては事項に必要な期間が0年となります。どちらの請求をするのかは時効期間が影響しますが,あくまでも亡くなられた方本人が持っていた権利を相続分の割合で引き継ぐという話になる(時効期間も本人を基準にスタートする)ところに,注意が必要です。

 

 ここでは使途の説明などにより損害(損失額)などがはっきりせず裁判に至れば長期化するという問題があります。相続開始時には存在していたが,例えばその後の預金口座凍結前に急に預金口座からお金が引き出された場合(そのため遺産分割をする際には預金額が相当少なくなっていた)には,その引き出したお金が遺産に存在するものとして扱って遺産分割を行うことができる制度が設けられました。

 この制度の意味は,なくなった預金額が遺産にあることを前提に遺産分割を行い,引き出して使った方がすでに取得した・そのことを前提とした調整を行うことも可能になる点にあります。この制度を使うには,

 ①相続開始後の財産の処分がある場合のみ

 ②遺産分割を行おうとする時点に財産が残っている場合のみ

 ③遺産を処分した方以外の相続人が全員同意をしている場合

の3つすべてに当てはまる必要があります。遺産が預金しかなくすべて引き出されているケースや相続開始前の亡くなる直前に大きくお金が引き出されているケースでは対応が難しくなります。そもそも同意をとれそうにない場合などには使うことができないという限界もあります。

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