結婚後は,夫婦のどちらかが他方の氏にする必要があると法律で定められています。法律上は男性側・女性側どちらでもいいのですが,多くのケースでは女性側が男性側の氏に変更している模様です。男女ともに結婚後も同じ仕事をしている場合が多くなりましたが,結婚前の氏(旧姓)を結婚後も使い続けたいという希望はそれなりに大きいかもしれません。今回は,結婚後に夫側の氏に変更をした女性が,職場(教育機関)に対し通称としての旧姓の使用を求めたケースを取り上げます。
このケースでは,女性側からの先ほどの請求に対し,職場側から就業規則の決まりを根拠に拒否された(戸籍上の氏,このケースでは夫側の氏を使うことになります)ために,旧姓の利用を求めること・請求を職場から拒否された点に対する損害賠償請求を求めて裁判を起こしています。
女性側の請求の理由としては大まかに言えば
①氏名は,個人を識別するもので,個人の人格の象徴であって人格的な利益に深くかかわる・
②氏名のうち,氏についても同様であって,希望に反して名乗れなくなるのはおかしい
③ここでいう氏には戸籍上の氏だけでなく,生まれてから長期間使ってきた氏についても同じような個人の識別機能があるから含まれる
ことを根拠に,職場側が一方的に戸籍上の氏のみしか使用させないのは,旧姓を使用する権利を不当に侵害しているというものです。
これに対し,職場側の反論は大まかに言えば
①氏名のうち個人を識別する機能を持つのは,戸籍上の氏であって,旧姓までは法律上保護されるものではない
②仕事の性質上,各従業員(ここでは教員)の氏名などの確実な管理が必要で,そのためには戸籍上の氏による管理が重要
③あくまでも職場としては,業務の必要がある場合・書類上での戸籍上の氏の表記をしているだけで,それ以外に各自が旧姓を利用することに何かペナルテイを課していないので,精神的な抑圧などはない
というものです。
これに対し,裁判所の判断は大まかに言って次の通りです。
まず,氏名については,既に最高裁の判断(戸籍上の氏名)に関して,個人を識別する機能を持つもので人格的な利益に深くかかわるから,法律上保護されるというものがあります。旧姓も同じように言えるかどうかという点について,判断では人格的な利益を権利といえるかは判断していませんが,個人の識別に旧姓も戸籍上の氏名とお内容な機能を持っていることから,違法な利用の侵害には損害賠償を支払う義務が生じる可能性があることを一般論として述べています。
そのうえで,問題となったケースでは,違法な利用の侵害になったかどうかを判断しています。
①戸籍上の氏名と通称である旧姓は同じように個人識別の機能を持つのではなく,公の証明制度である戸籍制度に支えられた戸籍上の氏名の方が大きいため,職場における人の管理という側面で戸籍上の氏を使うのには合理性がある
②結婚前は,旧姓のみが個人識別に使えるのみなのに比べて,結婚後は戸籍上の氏名と通称としての旧姓が使えるために,結婚後の旧姓利用の利益は結婚前よりも小さい
③現時点では,通称としての旧姓利用が戸籍上の氏名の利用と比べて一般的とまでは言えない
と述べて,請求を退けています。
この裁判例はあくまで地方裁判所の判断ですから,今後どのような判断の方向性が生じるのか定かではない点があります。また,今後の通称としての旧姓利用の傾向によっては,この判断を前提としても同じように今後もいえるのか注目されるところです。
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