法律のいろは

所有者不明土地に関する法律改正。財産管理制度の新設と相続で取得した不動産を国へ譲渡できる制度とは?

2021年10月17日 更新 

    今年の4月に成立しました主に所有者不明土地への対策としての法律改正は相続や共有に関する制度の変更・隣の土地の利用など多数にわたる内容があります。今回は新設された財産管理制度の概要と相続で取得した不動産を国へ譲渡できる場合を定めた制度について触れていきます。

 

〇新設された財産管理制度とは?

 今回の一連の法律改正の中で,土地・建物の所有者が行方不明・誰か分からない場合に,その土地・建物だけを管理してもらうための制度として,所有者不明土地・建物管理制度が設けられました。

 

①  所有者不明土地・建物の管理制度

 所有者が誰かわからない土地や建物は,その所有者に相続が発生したけれども長年遺産分割がされていない場合や,行方不明の場合があり得ます。行方不明になった方の財産全部を管理してもらうための制度はこれまでも存在していました。全ての財産管理を行う負担やそのための費用がかかるといった問題が出てきます。

 これまでの制度をコンパクト化した(土地建物のみを管理)制度です。共有持ち分を持つ方が行方不明・不明である場合には,共有持ち分を管理する形になります。

 

 財産管理人の役割としては,老朽化した空き家が崩れそうな場合の修理を行う(他人が行うのは権限がありません。修理して後で費用請求するにしてもどこまで請求が認められるか・そもそも誰に請求するかという問題があります)ことができます。土地や建物の処分は裁判所の許可があれば行うことができます。土地や建物においてある物の管理も行うことになります。管理人自体は裁判所が選任し監督を行うことになります。管理を行うことの申立ては隣地所有者など,その土地・建物の管理に利害関係を有する方が行うことができます。

 

②  管理不全土地や建物の管理制度

 このほか,所有者は判明している・いるのだけれども,管理がなされておらず,他の人の権利を侵害する場合もありえます。例えば,家の管理がされておらず,屋根などが崩落する可能性が高く,隣地の家に迷惑をかける場合です。こうした場合に管理人の選任を要求する制度(管理不全土地・建物管理制度)が設けられました。

 この制度は所有者不明どころか所有者がはっきりいる場合であっても使うことができますが,その利益を侵害する可能性があるので制度上,制限がかかっています。要は,管理不適だからその意に反して管理を行う点があるという話ですが,利益を守るための調整がされています。まず,他の人の権利を侵害している・その可能性が高い(と言える事情が存在する)場合しか使うことはできません。また,所有者不明土地建物と異なり,所有者の同意がないとその処分を行うことはできません(厳密には裁判所は許可できない)。

 

 この制度は所有者は判明しているけれども管理を行えない場合に,所有者不明の制度とは異なる活用の意味合いが出てきます。その場合に,判断能力如何によっては他の財産管理を含む成年後見制度の活用というものもありますが,そのための診断書の取得などの問題が出てくる面があります。先ほどの隣地所有者のケースでは,裁判を起こし,裁判を行うための特別代理人の選任を求めるという方法もありえます。それ以外にどこまでこの制度が活用されるのだろうかという気はします。財産管理制度である以上は,管理人には報酬が発生しますので,この当座の負担の問題も存在します。ことに,所有者本人がその土地建物に住んでいて適切な管理に抵抗することが予測される場面では,その抵抗の排除自体有効になしうるのかという問題もあって,この財産管理制度の開始(裁判所がOKという必要あり)がなされるのかという問題は残ります。開始のためには,「管理が不適当」「他人の権利に侵害あり,侵害のおそれあり」「必要性あり」を挙げていますが,特に「必要性あり」というものが何を指すのかという問題もあります。

 管理の申し立ては「利害関係人」が行うとされていますが,管理についての利害関係ということになると,どこまでの方が含まれるのかという問題があります。権利侵害を受ける方は該当するかと思われますが,管理者の親族が当然に含まれるのかという点が問題になりえます。

 

〇相続した土地を国家に帰属できる?

 新たに法律として,「相続等により取得した土地所有権を国庫への帰属に関する法律」というものが設けられました。これは,所有者不明土地が増えていることを踏まえて,相続や遺贈で取得した土地やその共有持分を国に帰属できる場合を定めた制度です。

 

 現在いわゆる田舎の山林や田畑を中心に管理に手間やお金がかかるので「負動産」と言われるほどに,不要と感じられる土地が増えています。建物とは異なり壊すこともできません。この制度は,相続や遺贈によって土地や共有持分を取得した方が,国(法務大臣)に対して,その土地や共有持分の譲渡に関する承認の申請を行い,承認された場合には譲渡できるという制度です。

 ここだけ書くと誰でも請求して承認される気がしますが,もちろんそんなことはなく,何でもかんでも国に譲渡できることでのモラルハザード防止のためのハードルが設けられています。先ほどの「負動産」と書いた部分は将来の管理コストがかかる割に使い道がないという話ですが,この制度は国へ負担が移されるだけという点をとらえて,承認がなされても譲渡を行うためには管理コストについての負担金を申請者に支払ってもらう制度となっています。

 

 また,承認を行う場合については,承認を行えない場合がハードルとして設けられています。行えない場合にあたらなければ承認はされるのですが,この場合実は承認申請したい場合の多くを占める可能性があります。そもそも,承認申請できる土地自体制限されています。

 それは,対象となる土地が①建物がない②担保権や利用権設定がない③通行権が設定されているものとして扱われない土地④有害物質がない土地⑤境界や権利関係でのトラブルがない土地,とされています。承認しない場合は,①崖が存在し,その管理に大きな費用や負担がかかる土地②土地の上や地下に,管理や処分をするのに妨害となる物が存在する土地③隣接地の所有者との紛争を解決しないと,管理や処分が行えない土地④その他管理や処分に大きな負担がかかる土地,です。

 譲渡を行うためには,こうしたハードルをクリアしていく必要があります。

 

 

 以上のように,財産管理やこれまで存在しなかった国へ土地を譲渡する制度が設けられました。いずれも,他の人との権利調整やモラルハザード防止のための規制が設けられています。実際にハードルをクリアできるのか・見通しがどうなるのか・どういった手段を使えばいいかは専門家の意見も聞きながら見通しを立てていく必要があるものと思われます。

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