法律のいろは

亡くなった方の口座からの預金の引き出しはどう扱われるのでしょうか?(その③)

2015年4月13日 更新 

 世話をしていた方が世話を始めて以降,時々数十万円クラスの引き出し(場合によっては100万円程度)が何度もあり,亡くなられた方が死亡する際には,ほとんどお金が残っていないというケースについて考えてきました。

 こうして引き出したお金を無くなられた方のために使ったという話がお金の使途の説明(きちんと使ったのだから,使途を問題にされる・賠償や返還を求められる理由はないという反論)はよくある反論です。領収書記載の項目と金額及びその方の当時の生活状況等から,その方のために使ったのかという点と金額面でどこまで説明できるのか・磁気的な整合性があるのか等を考えていくことになると思われます。

 これ以外のよくある反論である,面倒を見る等してお金を管理していた方や第3者のために使われたいた場合について,触れていきます。先ほどの話とは違い,お金を管理していた方や第3者のために,亡くなられた方のお金を使う理由は基本的にないはずであり,どうしてそのようになったのかが大きく問題となってくるところです。

 こうした場合には,亡くなられた方の同意が全くなくお金をその方以外のために使うことはできないはずなので,亡くなられた方の同意があったかは大きな問題となります。これは,面倒を見ていた方が,仮に成年後見人であったり,財産管理契約を受けた方であっても同様です。いずれの場合でも,本人のためにお金を使うという義務を負っています。お金の流用にあたるこうした行為をするのは本人の同意がなければ横領行為にあたり,犯罪になる可能性が高く(ただし,親族に関しては刑法上犯罪になっても処罰が一定の場合にできないと規定されています。亡くなられた方の子供や同居している子供の配偶者はここに該当します),損害賠償請求の対象となるものだからです。

 また,成年後見人であれば,特に大きなお金の動きにはその使途について家庭裁判所に報告をする必要があります。その報告の内容がなんであるのか等の点も問題となるでしょう。財産管理契約の場合には,報告や説明義務がありますので,資料などを付けて説明できるのかは重要です。

 

 仮に,こうした場合に同意があった場合はどうなるのでしょうか?問題となるのは実際に同意があったといえるのかどうかという点になることも考えられます。まず,身の周りの世話をしている方が親族(相続人に該当する方)のケースが多いので,こうした場合を考えていきます。同意をしてお金を渡していた場合には,生計の資のための贈与をしたという可能性が出てきます。もっとも,贈与も契約ですので,あげる方ともらう方があげる・もらうの意思が一致している必要があります。そうした意思の一致(特に渡す方の意思)があるかが疑わしいケースがあり,こうした場合は同意があったかがそもそも問題となってきます。

 同意があったというお金の動きの内容(金額等)にもよりますが,生計の資のための贈与と評価することができれば,こうしたお金の動いた部分は特別受益として,遺産分割において原則として考慮して財産を分配することになります。また場合(贈与によって遺留分の侵害が生じているケース)によっては,遺留分減殺請求・遺留分侵害請求をするのかどうかが問題になってくる場合があります。

 ここでは遺留分の侵害があるといえるのかどうかの計算も重要になってきます。遺留分の計算については,別途遺留分に関するコラムで触れますが,あくまでも生前贈与があったことが前提になります。言い換えると,相続開始後・口座凍結までのお金の引き出しについては生前贈与が考えられない(ただし,遺言があれば遺贈の可能性があります)ため,遺贈がない場合には遺留分侵害とは言えない部分が出てきます。相続開始後の引き出しについて,遺産になお存在することを前提にした遺産分割制度(相続に関する法改正によって設けられたもの)を活用できる場合もありますが,預金口座に残ったお金すべてが引き出されている・他に遺産がない場合には使えません。使い込みに関しては生前贈与については10年を超えてというのが問題になることは少ないと思われますが,法改正により,10年を超えての生前贈与については贈与をする側と受ける側双方に遺留分を侵害する形の贈与であるとの認識がないと遺留分侵害を考える対象とはならなくなりました。

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