法律のいろは

遺留分侵害額(減殺)請求を防ぐ遺言は可能なのでしょうか(その①)?

2015年6月18日 更新 

 結論から言えば,遺留分侵害(減殺)請求を完全に防ぐことを遺言で対応するのは不可能です。これは,遺留分が一定の親族関係の方の生活保障のために一定の取り分を与えているためで,そこを遺言で自由に動かせるとなると権利の意味がなくなるからです。

 遺留分を与えられている相続人の方の中には,亡くなった方の財産がある特定の相続人等に与える遺言等が存在した場合に,異論を出す方がいるかもしれません。生前の財産の処分についても言えることですが,こうした場合に,そうした相続人の方が遺留分侵害(減殺)請求という方法をとった場合には,遺言や生前の財産処分の目的を果たせない可能性が出てきます。

 たとえば,家族経営で事業をしている場合に,財産の大半を占める事業で使っている財産を後継ぎに引き継がせる場合・親の世話をしていた方に財産の大半である自宅を引き継がせる場合等が考えられます。こうした場合に,遺言の中で,遺留分減殺請求をしないように記載することはできるのでしょうか?結論から言えば,こうした記載をすること自体は可能です。ただし,遺留分については法律上保護された者であり簡単に放棄できるものでないうえに,遺言でこうした記載をしても法律上は何の意味も持ちません。あくまでも,遺言をした方の希望を書いたものという扱いになります。

 こうした問題への対応の一つは遺留分減殺請求を遺留分侵害請求へと変更する際に,遺留分侵害額のお金の請求を行う権利とすることで対応できた部分もあります。もちろん,お金の支払いができないとせっかく渡した財産を手放さないといけなくなるという問題はあります。

 ただ,相続が生じた場合に,亡くなった方の意思を尊重しようという流れになる可能性もあり,その意味では無意味であるという事にはなりません。そうはいっても,紛争が防げるかどうかは,これまでの親族間の事情等ケースによって異なるところです。では,遺留分減殺請求を将来行使してくるのではないかという可能性がある場合に,遺言である程度対策を講じておくことは可能でしょうか?

 今までの話の前提として,他に現金や預貯金等があり,この部分を後継ぎ以外の方に配分することにより,遺留分侵害(減殺)請求を防ぐ(というよりも請求に対応する)という事も考えられますが,これで十分かどうかはケースによって異なります。また,生命保険等の保険金を活用するという方法も考えられます。遺留分や特別受益では原則として考慮されないものであり,相続税では課税対象にはなりますが,非課税部分も存在します。ただし,遺言される方の健康状態その他によっては保険加入ができない場合もありえます。

    生命保険金(受取人を特定の相続人にするなどのもので,契約者が亡くなった方)については,受取人の固有の財産であり,保険料の対価に受取金請求権はならず被保険者の死亡によって発生するもの・被保険者の稼働する能力を埋める財産ではないというのが,その理由とされています(最高裁の判断で述べられている理由)。ちなみに,特別受益と判断される場合には,該当する者は遺留分に関する法律規定によって例外的に遺留分侵害になる可能性はあります。

 死亡退職金もその性質は,亡くなった方の遺族の生活保障というもので,遺留分の制度と別に存在しています。別に存在が予定されているものに,一方の介入があるのはおかしいので,原則として遺留分侵害に当たるかどうかを考える上では考慮に入れることにはならないと考えられています。

 

 先ほどの話にも合ったように,遺言で法律上も遺留分減殺請求の行使を完全に止めることまではできません。あくまでも,法律上認められている範囲での遺言の記載によって,重要な部分を守るという形になってきます。このほか,遺留分の事前放棄をしてもらうという方法もありえますが,この方法は遺留分の権利を持つ方が行う必要があるので,その同意が必要です。後継者に関する話ではほかのコラムで触れていますが,民法の特例である合意を活用するという場面も考えられます。

 遺言での記載の具体例については次回に触れたいと思います。

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