遺言を作成する際に,「遺言執行者」という方を指定する場合があります。ご自身で遺言書を作成する際に,参考にしようとご覧になった資料にもこの言葉が出てくることがあります。「遺言執行者」という方の基本的な役割は以前のコラムで少し触れましたが,今回少し詳しく触れていきます。
遺言執行者は,遺言の内容を実現する(様々な手続きを行うのが役割)ために必要となることがあります。細かいことを言えば,「相続させる」等の言葉を入れた場合には厳密には不要になるのが原則であるというのが理屈です。これまで名義の移転ができないとの扱いの存在や貯金の払い戻しができるのかどうかについての裁判例の対立が存在しましたが,令和元年7月に施行された相続に関する法律改正により解決が図られました。
まず,名義の移転(登記)については,最高裁判断から相続させる等の言葉がある遺言では引き継ぐ方のみが名義移転をできるとされていましたが,遺言執行者も行うことができるようになりました。,妨害になる事情があった場合(共同相続での登記がなされている場合等)ではその妨害を排除する(登記の抹消を求める等)をする権限があります。預貯金の払い戻しや解約(実際には引き継ぐ方への名義変更や一部ずつ払い戻して,それぞれを渡すとされた方に引き渡すことが多いと思われます)・名義変更については,これまで裁判例の見解が分かれていましたが,遺言執行者が行うことができると規定されました。ただし,預金の一部のみ「相続させる」との記載がある遺言では預金の解約までは行うことができません。ここで問題となるのは,法律で規定されているのは預貯金だけなので他の金融商品(投資信託の受益権などについて同なるのかははっきりしません。先ほどの名義変更や預貯金の払い戻しなども遺言で別の定めを置くことはできるので,個別の遺言の記載に従うことになるのではないかと思われます。遺贈をする財産の管理や引き渡しについては,遺言で定めをおけば遺言執行者がそれらの権限を持つことになります。
このような権限があるとされる範囲についてはそれを果たす義務(違反には賠償責任が出てくる可能性もあります)がありますので,注意が必要です。財産目録の交付や遺言を相続人(取り分なしの方を含めて)伝える(就任後遅滞なく行う必要があります)等義務も多いので,仮に親族で遺言執行者になったとしても気は抜けません。勝手な財産処分があるなどするとトラブルの元ですから,就任後にはすぐにその旨の通知も送っておいた方が無難です。
あくまでもこうした役割ですから,遺言をした方の相続人に法律上当たる方の間で遺言の内容に疑義が出て争いが生じた場合,遺言が無効かどうか争いになった場合等に間に入ることはできません。このことは,法律改正によって「遺言執行者」が「相続人の代理人」とされていた点は削除されましたが,遺言執行者の行った法律上意味のある事柄の効力はすべての相続人に及ぶとされ内容は基本的には変わっていません。相続人の間で争いが起きている場合には,利害が互いに反していることになり,役割は果たせなくなります。
そのため,仮に各相続人の間で遺言の内容や有効性について争いが大きい場合は,相続人がお互いに協議をする・弁護士に依頼して交渉を行う・遺産分割調停あるいは裁判を起こして,その場での解決を目指すということに任せるのが基本的な対応になります。遺言執行者自体が遺言の有効性についての見通しを検討する義務はありますし,いつまでも協議もつかず裁判もなされないまま放っていては業務を怠っているといわれる可能性もあります。解決を相続人の間で行うように促すとともに,話がどうしても進まない場合には執行を進める等の対応をすることもありえます。こうした場面になると,法的なリスクが大きくなるので,対応には注意をしておく必要があります。
「遺言執行者」は,遺言を残すのであれば,先ほどの手続きを行ってくれるという点もありますから,定めておいた方がいいでしょう。とはいえ,定めておかないと遺言が無効になってしまうということもありません。ちなみに,専門家に遺言作成を依頼した場合には,「遺言執行者」を定めることやその「遺言執行者」を専門家自身にしたらどうかという提案を受けることもあるでしょう。実際どうすればいいかは,「遺言執行者」には報酬(遺言で定めておくことが多いですが,定めておかなければいけないわけではありません)がかかります。そうした費用面はあるものの,「この方に任せておけば安心」というお気持ちがある場合には,定めておくように決めるのも一つの方法と考えられます。
何事にも言えますが,費用面と任しておくことのメリット・信頼からお考えになった方がいいでしょう。
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