法律のいろは

遺言が残されている場合に,その内容とは異なる遺産分割協議はできるのでしょうか?

2018年2月14日 更新 

 親御さんが遺言を残すことで将来の相続紛争を避けようというのはありうるところです。ところが,相続人である子供同士では別の内容で話をつけたいという場合に,実際にそうしたことができるかどうかが問題になります。遺言をした方の意思を尊重するのであれば,別の内容で決着をつけるのはおかしいという話になりますし,残された相続人の間で話が付くのであれば,それで構わないのではないかという話も出てくるところです。

 

 一般には,相続人全員が同意をしていれば,先ほど述べた点もあり,遺言とは異なる内容での遺産分割協議をすることも可能であると考えられています。これに対して,反対をする相続人がいるのであれば,当然話し合いはつかないですし,こうした場合に問題を起こさないようにする機能が遺言にはあります。

 ただし,遺言の中で遺産分割の禁止が定められている場合(最大で5年間)にはその期間内は遺産分割をすることはできません。また,遺言には書かれた内容を実現させるために遺言執行者という方が指定されているケースが多いです。こうした場合に,遺言執行者の方の意向はどうなるのでしょうか?まず,遺言執行者の方も相続人全員が同意をしている場合に,同じく同意をしていれば,本来は遺言を実現するのが仕事であるという点に反してはいますが,特に問題があるとする必要はないと考えられています。遺贈を相続人以外で受けた方がいてこの方にも影響を与えるならば,この方の同意ももちろん必要です。包括遺贈を受けた方がいて期間制限内に放棄の手続きを家庭裁判所に行っていない場合には,相続人と同様に扱う必要があります。この方を除外して話を進めることはできなくなります。

 

 次に遺言執行者の方が反対をしている場合には,どうなるのでしょうか?遺言が残され,遺言執行者が指定されている場合,遺言の内容を実現するために財産(遺産)を管理する権限は遺言執行者の方だけにあります。ここを重視すれば,相続人の方には特に権限がなく,遺言執行者の方の反対を押しのけて話し合いで相続人で話をつけることはできないとも考えられます。実際にこうした考え方に近い判断を示した裁判例もあります。そのため,少なくとも改めて合意をすることに反対をしないという形にしておくことは必要でしょう。ちなみに,一度遺言の効力が生じている以上は,遺言執行者の業務を行っていることになります。当然その分の報酬は発生するところでので,こちらの手当ても必要になります。

 

 遺言の中には,特定の方に「相続させる」「遺贈させる」などとの遺言がなされている場合があります。この場合には遺言で一度権利関係が動いていますので,特に土地や家の登記では手続きが煩雑になります。これは一度相続などを理由とした遺言に従った名義移転を行ったうえで,遺産分割協議内容を新たな原因(贈与など)とする登記の手続きを行う必要があります。ここではその費用が余分にかかることになります。また,一度遺言の効力が生じた後に全員の合意をもって遺産分割協議を行うという形態は,遺産分割協議をやり直す場合と似ているために課税がどうなるのかも気になるところです。遺産分割協議のやり直しの場合には贈与税などの問題が出てきますから,ここでも同じ話が出るのかという話にあります。税務面の問題となります。国税庁のHPにある質疑応答では,包括遺贈がなされた遺言のケースで,全員の同意をもって遺産分割協議を行ったケースを取り上げて,包括遺贈を遺贈を受けた側が事実上放棄して再度遺産分割協議をしたものであるから,原則として贈与税の課税問題は生じないと述べています。ここでのケース以外でどのようになるのか・例外が何があたるのかははっきりしません・特に個別の不動産について移転原因に贈与とある際にはどうなるのか等注意をするべき点がありそうです。

 

 いずれにしても,遺言とは異なる合意ができそうなケースか(相続人や遺贈を受けたかが相続人以外にいるのであればその同意は取れそうか・遺言執行者に関する手当はできているのか)・その後の協議による手続きなどの点の考慮はできているのかなど対応に注意をする必要があります。

メールフォームもしくはお電話で、お問い合わせ・相談日時の予約をお願いします

早くから弁護士のサポートを得ることで、解決できることがたくさんあります。後悔しないためにも、1人で悩まず、お気軽にご相談下さい。誠実に対応させていただきます。