法律のいろは

別居の経緯と面会交流の意向は親権者の判断でどのように考慮されるのでしょうか(裁判例紹介)?

2018年5月7日 更新 

 以前メデイアで,夫側から子供の親権者などを求めていた離婚裁判がありました。簡単に紹介をすると,第1審では面会交流への許容性が大きく評価されて夫側に親権が認められたものの,第2審では異なった評価から妻側に親権を認め,最高裁でも判断自体は第2審のものが維持されたというものです。今回は,あくまでも簡潔かつ大ざっぱな点はありますが,このケースを紹介していきたいと思います。

 

 このケースの概要(判決で認定されたもの)は次の通りです。夫妻ともに高度な職歴を持ち,比較的時間の融通の利く夫婦で子供は一人というものです。お互いの考え方の違いなどから夫婦関係が悪化していきます。別居の際に,妻が夫に告げることなく子供をつれて家を出た・その後しばらくは子供と夫との面会交流を妻は許容していたものの,夫側が子供の返還を求めることがあった等の事情から夫婦間の対立が大きくなり,途中から面会交流を妻が許容しなくなっていきました。

 夫側からその後子供の引き渡しなどを妻側に求める請求を家庭裁判所でしたものの,請求は認められませんでした。別居前までの子供の世話は,当時は専業主婦の状況であった妻側が主にしていた(夫側も途中から子育てを手伝っていた)・別居後に子供は妻が面倒を見る下で問題なく5年余り過ごしている・子供と夫側の関係は良好であったという事情があります。夫・妻ともに子供の面倒を見ることには積極的で,裁判の時点ではお互いが仕事をして十分に収入があり,それぞれ子育てについて親の援助も受けられる状況です。

 

 問題となった面会交流についての態度は,妻側は第3者機関を間に入れて月1回程度・2時間を希望,夫は月100日は認めるというものとなっています。なお,裁判の時点で,妻側の家と夫の住む家は片道2時間半程度離れています。子供は小学校には入学していました。

 ちなみに,ここでいう第3者機関とは,夫婦がお互いに直接やりとりすることなく面会交流を具体的にどうするのか(いつ・何時から何時まで・どこに行って何をするのか等)という連絡や子供の受け渡しを行うなどすることを業とする機関です。利用には事前に夫婦それぞれに意向などが面談で確認されることがありますし(当然問題がないケースでないと理容は難しくなります),利用には費用がかかります。こうした機関の利用は,夫婦の感情的な対立が大きい場合に考えられます。利用するのであれば,夫婦(というよりは子供の父母)が費用の負担を含めきちんと話をつけている必要があります。

 

 こうした事実関係の下で,裁判所は判断を下しています。親権を決める際の考慮要素をどのように考えるのか・別居の際の事情(夫婦の一方のみが子供の面倒を見るようになった経緯)の考慮の仕方(事実関係の評価を含めて)が問題になっているように思われます。

 第1審・第2審ともに,子供の健全な成長にとってどちらの親が見るのがいいのかという観点から判断をしています。第1審は,別居の際に妻側が夫の同意なく連れ出したこと・妻側が途中から面会交流に消極的で現在も制限的な態度を示している・夫側は別居以降様々な手段で子供の面倒を見れるようにしようとしたがうまくいかなかったものの,親権者になった場合には適切な環境で面倒を見れるように周到な計画を立て,面会交流に積極的である点を評価して,夫側が親権者にふさわしいと判断をしています。

 

 これに対し,第2審では,親権者の判断要素に,これまでの子供の監護状況や子供の意思,子供の現状や夫婦それぞれの監護に対する意欲や能力・環境面などを考慮して決めるとしています。面会交流についての積極さはそのうちの一つの要素で当然に他の要素に優先して考えるものではないとしています。

 そのうえで先ほど触れた事実関係に踏まえた判断をしています。別居前の主な世話は妻側が行い,別居後も妻が世話する下で特に問題なく生活している・双方とも監護をする意欲も能力も持っている・子供との関係は双方とも良好であるし,子供に妻と離れて生活したい意思を持っているとは言えないというものです。これに加えて,面会交流への積極さを判断していますが,このケースでは片道の距離が長く頻繁な面会交流が学校行事など子供にとって負担になる可能性がある・面会交流が親権者を決めるうえでの有力な要素ではないと判断しています。結論として,子供の現在の環境を変更してまで親権者を決める必要までは認められないとして,親権者を妻側としています。

 こうした判断に加え,夫側から別居の際に自身の了解なく子供を妻が連れて出た点について,次のように述べています。別居当時子供は2歳で,夫側は仕事で多忙であったため夫に子供を託せなくてもやむを得ない・夫婦関係は相当悪化しており,相談を事前にできないのもやむを得ないというものです。その後の面会交流に妻が消極的になった点も対立の激化からやむを得ないということを述べると思われる趣旨のことが記載をされています。

 

 最高裁がこの結論を是認したから,ここでの理解が当然に支配的なものとまでは言えません。しかし,第2審で面会交流への積極さ(このケースでも今後の面会交流をしないとまでは言っていません)が支配的な意味を持たないとした点や面会交流の制限に夫婦間の対立激化が考慮されていること・別居の経緯(黙って連れて出ても,子供の年齢や夫の状況・夫婦関係等が考慮される)という点には注意が必要でしょう。ここは第1審と大きく考え方が異なるところと思われます。

 

 

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