法律のいろは

亡くなった方の預金から葬儀費用を使った後で,相続放棄をすることはできるのでしょうか?

2019年11月3日 更新 

 亡くなった方に負債が存在して,亡くなった後で相続放棄を予定しておられる方はいらっしゃるかもしれません。また,亡くなられて葬儀をした後で負債が判明して相続放棄をしようとする場合もあるかと思われます。いずれの場合であっても,葬儀のために費用がかかりますので,少なくないケースで亡くなった方の財産から葬儀費用を使うことがあるのではないでしょうか?それが亡くなる直前の時期に預金を引き出すのであれ,その他の方法であれ,亡くなった方のお金から葬儀費用を支払っている点は同じです。亡くなった方の口座が凍結になる前にその預金の中から葬儀費用分のお金を引き出したというのが典型例と思われます。これに対して,凍結後に法律改正で認められた預金口座からの一部払い戻しを受けた場合には話が異なります。この制度は遺産分割前に法令で定められた範囲内で相続人が預金の一部を家庭裁判所の許可を経ることなく払い戻しその部分は遺産分割により取得したものとみなされる制度です。そのため,後で述べる初めから相続人でなくなるという扱いを受ける相続放棄の前提を満たすことはない(少なくとも処分行為と言えます)かと思われます。

 

 タイトルのような話が問題になるのは,相続放棄ができない場合として法律上定められている場合に当てはまるかが問題になるためです。結論から言うと,ケースごとの事情にはよりますが,相続放棄ができなくなる場合はありえます。リスクがありうるという点は頭に置いておいた方がいいでしょう。

 問題になるのは,法律上,亡くなった方の遺産を処分した場合にはすべて引き継ぐものと扱われると定められているため,ここでいう「処分した場合」にあたるのかどうかという点になります。葬儀費用の場合には遺産の金額にもよりますが,遺産の一部であるという場合もある程度はあろうかと思われます。法律上は一部であっても「処分した場合」にはすべて引き継ぐ形になりますから,シビアな問題となってきます。引き継ぐ形になるということは相続放棄によって相続をしていない(引き継いでいない)ということにはならないためです。

 

 ただし,最初に触れたように,同じ葬儀費用にお金を使った場合でも金額が小さい場合もあれば大きい場合もあります。また,負債があることをわかって使う場合もあれば,あとで判明する場合もありますので,これらをすべて同列で扱っていいのかという問題が出てきます。裁判例の中には,亡くなった方の負債を認識せずに使っていたケースや使った金額が小さい場合について,「処分をした」場合には当たらないということで相続放棄を認めたものもあります。裁判例の中には墓石や仏壇の購入のためにお金を使った場合も当たらないと判断をしたものもありますが,ケースごとの事情によるものですから,問題ないだろうという話は簡単にはできないと思われます。あくまでも,相続放棄が絶対にできないわけではないが,リスクは相当背負うという形で考えておいた方がいいでしょう。

 

 どのような場合が「処分をした」のにあたるのかはっきりしない面もありますが,少なくとも相続放棄の予定の方が意図的に遺産を使うということがあれば,プラスだけ得ておいてマイナスを逃れるのは不公正であるという点が当てはまりますから,こうした点が当てはまりにくい場合には,該当しない可能性が出てきます。具体的にどうなのかは,先ほど触れましたようにケースごとの事情によるという面はありますから,もし相続放棄を考えているような場合であれば専門家に相談をしておくのも一つの方法とは言えるでしょう。

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