法律のいろは

相続対策の注意点。相続税に関する「財産評価基本通達」が適用されない場合とは(不動産の場合)?

2021年3月29日 更新 

 相続対策というと紛争防止や財産管理を含めたお金の使い方の面もありますが,相続税の対策という面が相当程度あろうかと思われます。相続税の節税(財産隠しとなると後に税務調査によってペナルテイを受ける可能性が高くなります。そもそもこれは節税ではありません)としては,様々なスキームが考えられますが,財産評価額を落とすというのもポピュラーな方法の一つです。

 相続税法の定める宅地などの評価軽減措置(小規模宅地の特例や貸家建付地の特例等)の活用のほかに,お金を借りてアパートを建てて不動産の評価額を下げる等が考えられます。相続税で財産評価については関連する規定が少なく,一部の不動産に関する権利や定期金に関する規定の他には単に相続開始時の時価によるとされているだけです。実際には国税庁が定める通達である「財産評価基本通達」と呼ばれるものに沿って財産評価をしているのが通常といえるでしょう。

 

 この財産評価基本通達というのはあくまでの行政による法令解釈に過ぎず法律的な拘束力はありませんが,相続税に関わる運用で用いられていることから,そこからの逸脱ということも基本的には許されないことになります。この通達自身にも不都合が大きな場合には別の評価方法によることを予定しています。最高裁を含む裁判例での判断でも,多種多様な財産を評価することの困難さやバラバラな評価を避ける・公平感の確保・便宜性などの点から,①財産評価基本通達で定める評価方法が適正な時価を定める方法として一般的な合理性を有し②対象財産の課税価格がその評価方法に従って算定された場合には,③特別な事情がない限り,財産表亜基本通達に従った評価が,相続開始時の敵視な時価を上回らない評価額であると推認できるとしています。

 そのため,財産評価基本通達で財産評価を行うのが原則にはなりますが,先ほども触れましたように,通達自体に例外がある旨が定められるとともに,裁判例上も例外がある旨の判断をしたものがあります。今回は不動産の評価に関するものを触れておきます。

 

 これまで裁判例で問題となった大半は主にバブルの時期ころに,多額の借り入れを行って不動産を購入し,不動産の財産基本通達に補油評価額と負債の金額の乖離を利用して相続税の軽減を図ることができるか・こうした軽減対応が租税負担の公平に反するものとして例がにあたるのかが問題になってきたものが存在します。不動産の財産評価基本通達による評価は原則都会であれば路線価・郊外であれば倍率方式とされています。

 ここで問題となているのは,購入価格(その後売却をしているので売却価格を含めて)や不動産の鑑定業価額に比べて相当少額な財産評価基本通達に基づく評価額が存在し,この評価額で債務控除を行うと他の遺産の評価額分も差し引くため,基礎控除(改正前のケースで現在とは異なりますが,現在では3000万円+法定相続人の数×600万円)をすると相続税が課税されないという結果が公平に大きく反するかどうかという点です。売買や不動産鑑定を相続に近い時期に行うことが多いので,財産評価基本通達での評価額との乖離が大きいことと税負担が大きく軽減されることが,先ほどの当別な事情と評価できるのかがここでの問題点です。

 

 ここ数年で問題となったケース(裁判で判決まで至ったもの)の中に,相続対策のためにお金の借り入れと不動産の購入を行い,その後一部は売却をお混った・遺産分割協議と遺言で相続はなされたというものがあります。ここでは,売買価格・不動産鑑定評価額と財産評価基本通達に基づく評価額およそ4倍近い格差が出ているといった事情があります。売買価格に取引の市況よりも高低があるという事情はなく,不動産鑑定評価額が時価とされていたという事情もあるものです。不動産鑑定評価とは,不動産鑑定士が行う取引市況その他を反映した時価評価を厳密に行うものといえるものです。

 判決文を見る限りでは,納税者サイドは通達からの逸脱した評価の場合を限定すべき等の主張するとともに,節税目的の意図や相続開始後の一連の行動は先ほどの特別な事情として考慮すべきではないと主張しているようです。しかし,判決の判断では先ほどの格差の存在・売買価格が取引市況を乖離したものではない(かつ金額は両者はそこまで離れていない)・不動産鑑定士の評価は基本的は時価を反映しているものであることなどを考慮して,剤尾さん評価基本通達での評価の合理性への疑義は相応にあると判断しています。そのうえで,不動産の購入経緯や借入の目的(節税目的の存在や借入と購入によって税負担がなくなったこと)を踏まえると,特別な事情がある(公平に著しく反する)と判断をしています。言い換えると,財産評価基本通達以外の方法いよる評価が合理性があるというものです。

 

 税金対策は税負担を軽減させる目的でなされるものですから,結論として評価乖離が極めて大きく税負担が大きく減っている場合には先ほどの事情を満たすケースは極めて多くなるように思われます。この判断はあくまでも個別の事情についての判断ではありますが,節税目的で行うスキームもその節税の程度によっては(前後の行動や結果としての評価額乖離と税額負担の違いが大きな場合),評価通達の濫用ととらえられる可能性があることを示しているものといえるでしょう。

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