法律のいろは

亡くなった方が使用していた土地などの権利関係が問題となっている場合に,相続人はどこまで主張できるのでしょうか?

2021年4月10日 更新 

 遺産分割協議では,亡くなった方がその財産を持っていることを前提にその財産の配分を問題にします。この前提があるかどうか問題になるものの一つとして,ある土地を亡くなった方が長年利用してきたが,別の方から自分の所有だといわれた場合に問題が出てきます。特に土地や建物は登記の制度があるので,登記の名義人が一応権利者である蓋然性が高いものとして扱われます。

 とはいえ,長年自分のものであるとして利用をしてきた・登記の名義人がその状況を排除してこなかった場合には,土地等の権利を取得できる制度があります。「取得時効」の制度がこれにあたります。この制度を使うには,自分が所有者であるという前提での利用をしている必要があります。そのため,無償・有償で借りていたという事情があった場合には使うことができません。所有者であるという前提での利用には「排他的に利用」している必要があり,登記の名義人も使っているけれども自分も使っていたという場合にはこれを満たしません。特に山などの広大で何人もの方が利用できる場合には,後者の点はそう簡単には言えない場合があります。

 また,「取得時効」の制度を使うには,自らが所有者であると信じていたといえる事情があるかによって,制度を使うのに必要な利用の期間が変わってきます。単に信じていたというだけではだめで,利用開始時の事情から,所有者と信じていたといえるかどうかが重要です。登記の名義が異なる場合には信じていたとは言いにくくなるため,期間が長くなります(10年ではなく20年)。

 

 こうした事情を亡くなった方が持っている場合に,相続人の方自体も登記の名義人の方から,誰が所有者なのかという請求を受ける可能性があります。遺産分割協議でこのような請求を受けるリスクを抱えながらも,その土地などの権利を得るという場合もありえますし,話をつける前提として決着を図るということもありえるでしょう。もちろん,登記の名義をチェックせずに大丈夫だろうと考えて話をしたところ,後で問題が顕在化したということもありえます。

 遺産分割協議のあとであれば,その財産を取得したことになっている相続人の方が「取得時効」の制度を使うかどうか決めて対応することになります。この場合に,登記名義人の方との間で「取得時効」の制度を使うことができる場合かどうかがトラブルになることはありえます。主に,亡くなった方が所有者という前提で利用してきたのかどうかなどが争いになります。相続人は亡くなった方のこうした前提を引き継ぐことになります。

 

 遺産分割協議の前については,全ての相続人が相続分で共有をしている形になります。この場合に,一人の相続人がその土地全体について「取得時効」の主張ができるのかどうかが問題になります。この問題については,全体の利益になるのだから当然できるという考え方と相続分について権利を持つので,相続分に該当する部分のみという考え方がありえます。最高裁の考え方は後者になります。これは,「取得時効」(厳密には時効制度全て)の主張は,法律上自らが利益を受ける範囲内で行使できると考えられているため,相続分を持つ方はその範囲で利益を受けるからであるとされています。

 したがって,この段階で全体(すべての持ち分)について「取得時効」の主張をするには全ての相続人が「取得時効」の主張をする必要があります。「取得時効」に必要な前提(要件)を満たしているかどうかが問題になる場合には,この問題の解決を遺産分割協議前に図ることになるでしょう。

 遺産分割協議後に取得した方が争う場合には,トラブルリスクを引き受けている必要があります。他人名義の土地を長年利用してきたという場合には,後の名義変更が可能かどうかという「取得時効」の制度を使った場合のリスクの内容についてよく認識をしておく必要があります。

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