法律のいろは

遺産分割しないまま遺産を放置する場合のリスクとは~所有者不明土地に関する法改正案を踏まえて

2021年4月25日 更新 

 亡くなった方が残した遺産分けをどうするか?遺言が残されていれば、それに従った配分をすれば済むのですが、実際には遺言がないケースの方が多いです。金や保険といった、分けやすいものであれば、話がまとまりやすいところですが、もう誰も住んでいないところにある山や田畑になると、そもそも誰が引き継ぐのか、という話でもめがちです。話し合いがまとまらないと預貯金・保険といった他の遺産もそのままになってしまいます。

 このように遺産分割をしないまま遺産を放置する場合、どのようなリスクがあるでしょうか?この度、所有者不明土地問題に対応するための民法・不動産登記法の改正案が国会に提出されており、早ければ今夏にも成立見通しとなっています。そのため、その内容にも一部触れながらお話しいたします。

 

①相続が何代にもわたって発生し相続人が増えるリスク

 遺産を分けないままにしているうちに、相続がさらに発生し、相続人がさらに増えてしまう可能性があります。何代にもわたって遺産を放置することで、相続人が数十人になっていたという場合もあります。そうなると、相続人を逐一調査して所在を確認するのも難しくなります(外国に相続人がいる場合は住所の調査も困難になります)。こうなると話し合いでの解決は難しくなります。この点については以前同内容のタイトルでコラムを書きましたときにも触れた通りです。

 

②遺産の処分が困難

 遺産分割ができない限り、遺産を誰が取得するか決まらないので、処分が困難になります。そうなると、預貯金や保険の払い戻し手続きが取れない、山など不動産の売却もできず、相続税の支払をしないといけない場合には納税資金の確保も難しくなります。

 なお、預貯金の払い戻しについては、少し前の相続法関連の民法改正により、相続人は相続開始後遺産分割までの間に、一定の場合家庭裁判所の許可なく単独で払い戻すことができることになりました。ただ、これには制限があり、相続開始時の遺産の預金額の1/3×法定相続分割合までに限られています。また、この手続きを利用したとき、遺産分割の手続きで先取りがあったものとして扱われることになりますので、結局のところ払い戻しを受けた方の最終的な取り分が少なくなってしまうため、注意が必要です。

 

③譲渡所得税の軽減措置が取れない

 相続で取得した財産を相続開始から3年10か月以内に売却すると、納税した相続税の一部を売却のコストに上乗せして売却利益から控除して所得税や住民税を計算してもらえる相続税額の取得費加算という特例があります。しかし、遺産を取得する人が上記の期間内に終わっていないと利用できません。

 

④ この度の法改正により負担発生のリスク

 前述のように、今年(令和3年)3月に所有者不明土地の発生防止、土地の適正利用、相続による権利の引継ぎの円滑化などのため、民法の一部と相続等により取得した土地所有権の国への帰属に関する法律案が国会に提出されています。

 この改正法案では、遺産分割で亡くなった人への相続人の貢献(寄与分)や生前受けた贈与など特別受益を考慮した具体的相続分による遺産分割を求められる期間が相続開始時から10年に制限されるようになります。また、不動産を取得した相続人は、相続したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならなくなります。

 

 このように、遺産分割せずに放置すると話合いするにも相手が多くなり難しくなる、本来相続の際に主張できる権利が主張できなくなる、税法上の優遇措置が受けられなくなるなどデメリットが多くなります。そのため、こういったリスクを踏まえ、話し合いが難しいようであれば遺産分割調停手続きを取るといった早目の対応も考えるべきでしょう。

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