法律のいろは

相手方の住所が不明な場合、通知をしたり裁判を起こすにはどうすればよい?

2021年4月24日 更新 

 賃貸借契約解除の通知をしたいがどこにいったのか分からない、お金を貸したものの、返済がないまま所在が分からなくなった、といった場合、相手方に裁判を起こそうと思ったときにどのような手続きを踏む必要があるのでしょうか?またその手続きを取るにあたってどのくらい期間がかかるとみて置いた方が良いでしょうか。

〇所在不明になった人に賃貸借契約解除の通知をするには?

 借家人が所在不明になっていて家賃も数か月分滞納がある、という場合、まずは契約解除をしたいというところだと思います。こういった場合、どのような方法をとれるのでしょうか?

 民法では、「公示による意思表示」の手続きというものがあります。これは、意思表示(今回ですと賃貸借契約の解除の意思表示)をしたい相手方が誰なのか分からない、あるいはどこにいるか分からない(まさに今回のようなケースになります)と言った場合に利用できる制度です。

 「意思表示の公示送達の申立て」は、今回の場合のように相手方がどこにいったか不明の場合は、相手方の最後の住所地の簡易裁判所に申立をします。申立のときには、相手方に伝えたい意思表示の内容が書かれた通知書・意思表示の公示送達の申請書(書式は裁判所のホームページに掲載されています)、戻ってきた郵便物(上の通知書と同じものであることが多いでしょう)、調査報告書(最後の住所地の現在の状況、居住形態などを調査したもの)などを準備・提出する必要があります。

 申立により公示送達の許可が出ると、裁判所の掲示板に公示送達の掲示がされ、官報への掲載か役所の掲示板へ掲示されます。官報への掲載・役所の掲示板への掲示から2週間経過後、公示送達の効力が生じます。

 なお、賃貸借契約の場合、解除の通知が公示送達されても、その後最終的に明け渡しをしてもらわないといけないことから、別途意思表示の公示送達の申立をするよりも、後述の裁判の中で賃貸借契約解除の意思表示をすることが一般でしょう。

 

〇裁判所で裁判をするにあたっては相手方が書類を受け取れるのが原則

 それでは、上記のように所在不明の人に明渡を求める、お金を返すよう請求するにはどうすればよいでしょうか。

 この場合は、所在不明の人を相手に明渡しを請求する・金銭の返還を求める裁判を起こすことになります。

 裁判所には、まずは訴状といって、申立をする人のいい分を法律構成した書面の提出をするところから始まります。この訴状やそれに書かれた主張の裏付けとなる証拠類が相手方にきちんと交付され、相手方が受け取ったことを前提に裁判の手続きが進むのが原則です。そのため、まずは相手方の住所地(会社であれば本店所在地)に対して特別送達というかなり特殊な方法で訴状等書類が裁判所より送られることになります。送付にあたって相手の今の住所が分からないときは相手の最後の住所地の住民票を取り寄せて行うことになります。

 相手方の住所が分からないが勤めている(勤めていた)ところが分かる場合には相手方の勤務先に送ってもらうことが出来ます。ただ、原則としては相手方の住所地にまずは送ることになっていますので、住所地について調査したけれどもどこか分からないという報告書が必要になります。

 相手方がそれでも受け取らない・再配達の連絡をしないまま放置している場合は、裁判所に送付書類一式が戻ってきますから、その場合、再度住所地に送付してもらうという手続きを取ることになります。これは「付郵便送達」といいますが、これによるには本当のその住所に住んでいるといえるのか、住所の調査をした上で、ガスや電気を使っているかどうか、洗濯物が干されているか、郵便ポストの郵便物の貯まり具合がどうか、近隣住民が相手方を目撃していないか聞き取りをするといった調査が必要になります。以前行ったものでは、(夏場であったため)エアコンから水が出ている、家の中に洗濯物が干されているのが見える、家具やその他自宅に物が置かれており、住んでいる気配があるという報告書を写真とともに提出をしたことがあります。この場合でも休日配達指定郵便などで再配達を何度か行ったあと、付郵便送達が認められたことがあります。

 付郵便送達が認められると、裁判所から被告がいると思われる住所地に書類一式を発送することで、送達がされたと扱う制度ですので、そこまで至るのに手続きを踏むことになり、かなり時間がかかることが多いです。この時点までで訴状など提出から1か月以上になることがあります。

 

〇それでも相手方の居場所が分からない場合は?

 相手方の居場所・住所が分からず、どこに勤めているかもわからない場合には、最終的には「公示送達」という方法を用いることになります。

 これは、先の「意思表示の公示送達の申立て」と重なる部分もありますが、裁判所の掲示板に裁判が起こされているので、裁判所が保管している書類を取りに来るようにとの掲示を行うというものです。掲示から2週間経過で送達が有効とされます、

 裁判所での掲示となると、さすがに相手方がその掲示をみることなくそのまま2週間が過ぎ、裁判手続きが開始され、相手方が裁判所に来ることがないまま判決となることが一般的でしょう。判決という強い効力を持つ判断が相手方の関与なく出されるという制度ですので、住民票をたどっての調査、判明している最後の住所地に居住していないかの調査、相手方自宅周辺の関係者などへの調査を行った上で、それでも相手方の住所地が不明であるとの調査報告書の提出が必要になります。これについても以前行ったものでは、そもそも相手方の最後の住所地とされる場所にカーテンも含めた家具等一式が全くなく空き室になっている、ガスが止められている、電気メーターが止まっている、郵便物がポストにかなり前から溜まってあふれている、といった写真を撮影した上で報告書を提出して、公示送達が認められたことがあります。

 

 ここまでの手続きを取るとなると、内容によってはさらに裁判での手続きを行う必要があることもあるため、判決まで半年以上かかるものもあります。

 ただ、放置していると結局何も手続きが取れないまま期間が経過することになりますので、状況によってはこういった制度の活用を考えざるを得ない場合があるでしょう。

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