法律のいろは

相続税の申告や納税後に遺産分割協議が成立した場合の対応。特殊なケースですが,最近の判例を踏まえて。

2021年11月15日 更新 

相続税に関して数年前に法令改正がなされ課税される場合が増えました。相続税については遺産分割で取得した内容で最終的には課税されるので,相続税の申告・納税期限までに話がつかないケースの対応は問題となります。また,相続税・贈与税では財産評価をめぐり,通常は国税庁の出している行政解釈(財産評価基本通達)に従うことが多いですが,その是非や評価の方法などが問題となることもありえます。

 ごく最近最高裁が2審までの判断を覆した,特殊なケースではありますが相続税に関する判断がありますので,今回はその話を触れていきます。

 

○遺産分割と相続税の納税。納税に関する是正方法とは?

 相続税・贈与税は相続税法の規定に従い,先ほど述べた行政解釈(通達)を踏まえて運用されています。以下では相続税のみ触れますが,財産評価後に非課税部分の考慮・課税財産を足して法定相続分で各相続人が取得したことを前提に課税総額を計算し,その後実際の取得に応じた各相続人の税額を計算します。ここでは配偶者の軽減措置や各種控除は除いておきますが,簡単にこうした計算経緯をたどります。

 そのため,実際の取得に関わる内容が重要になりますが,遺言で全て定めている場合(遺留分の問題は除く)を除くと,遺産分割協議がなされない・調停が終了しない状況でも,相続税の申告期限(現在は相続開始を知ってから10か月以内)に申告と納税が必要になります。この場合は,とりあえず,法定相続分での取得として申告をしておき,話がついた後で是正の請求(更正の請求)を一定期間内に行うことになります。注意として,とりあえずの申告の際に行っておく手続きがあり,この手続きを行う必要があります(ここでは詳細は省略します)。

 

 是正の方法は,更正の請求というもので,全ての税金で共通のものと相続税言おける特別ルールが存在します。共通のものを簡単に触れておきます。まずは,申告の期限から5年以内に行うことができるもので,その一つに所得や財産額・税額の計算の間違いや法令に従っていなかったことで税金が多くなっていたというものがあります。もう一つは,税務官庁の処分での財産額や所得額の計算の基礎となる事実関係等が事後に裁判所などにより別の判断が下されたというものがあります。後者は納税申告後の事情を踏まえての是正となります。

 これとは異なり,税務官庁側でも是正(こちらは過小な税金申告・無申告の是正を含む)を行うことができますが,期間の制限があるので,いつまでもできるわけではありません。

 

 相続税については特別ルールがあります。それは,遺産分割協議が決着した・遺留分侵害額請求に関する争いが解決した・認知に関する問題が解決したという,申告後の事情変更に対する是正です。税務官庁でもこれに対応した是正を行う権限が定められていますが,一般の場合の期間制限や相続での特別ルールでの是正請求を納税者サイドから起こされて1年経過後は行うことができません。

 

 

 したがって,遺産分割での是正は相続税の特別ルール(4か月以内)・財産評価関係の間違いは通常の是正ルールか,仮に裁判所などでの争い解決後は通常の是正ルールのうち事情変更に基づくものというのが一般的なところです。以下の話を含めて法改正により,是正に関する期間が,問題となった事項が存在した時点と比べて変更されているところもありますが,ここでは省略します。

 

○最高裁の判断で問題になったものとは?

①背景となる事情

 

 最近出た最高裁の判断(最高裁令和3624日判決)では事情がに特殊な面があるとともに,2審までの判断を覆し,納税者敗訴の判断を出しています。少し背景を触れておきます。

 

 まず,このケースでは,遺産に含まれる会社の株価の評価をめぐり納税者と税務官庁側の考え方が対立し,一度裁判まで至り,納税者側勝訴の判決が出ています。ここで株価は申告の際に納税者が出していた金額・税務官庁が認定した金額がありますが,判決では申告の際の金額を下回った評価がされています。納税者側はこの勝訴時点で更正の請求を行うこともありえたところではありますが,その後遺産分割協議に基づいて更正の請求を行っています。

 このケースでは,法定相続分から見て遺産分割での取得割合に変動があるとともに,遺産に含まれる株価をどう評価するという点で特徴がありました。判決文から見ると,相続開始は平成16年・1回目の裁判は平成256月ころ解決・遺産分割は平成261月に解決しているようです。ちなみに,1回目の裁判後に税務官庁側は株式に関する通達の変更を行っています。

 1回目の判決確定の時点で一般ルールによる通常の是正の期間は経過しているので,事情変更に基づく是正を行うことはありえたところです。遺産分割決着の時点ではこの方法でも期間が経過しています。

 

 こうした背景事情のもと,是正の請求を受けた税務官庁側は請求を退けるとともに,遺産分割の結果を踏まえて納税者側の相続税の増額の処分を出しています。これは,法定相続分よりもその方が多く取得することになったためです。この判断を取り消すための申し立てが納税者側からなされ,行政での不服申し立て手続き後に裁判所でも争われました。

 

②争いになった点とは?

 簡単に言えば,

・相続税の特殊な是正ルールの下でも,評価額の点の是正を求めることができるか

・一度目の裁判所の判断が,相続税の是正の判断において税務官庁の判断に影響を与えるか(1度目の裁判所の判断額通りの評価を税務官庁はしないといけないか)

 

 というものです。結論から言えば,一つ目の点は1審から最高裁まで否定的です。二つ目の点が最高裁と2審までの判断を分けており,1審と2審は影響すると判断し,最高裁は異なる点から影響しないとしています。

 

 このうち,一つ目は結局本来は申告後の事情変更の是正手続きであるのだから,そうではない財産評価の話は取り上げられないというものです。財産評価それ自体は相続開始時のものであるという理解が前提になります。先ほどの一般的な是正における事情変更では,申告後の裁判所などの判断が出た場合を定めているので,裁判所判断を事後のものというならば,こちらの手続きによるべきという話になります。

 

 問題は二つ目の話です。こちらは,やや分かりにくい点があります。それは,行政訴訟で請求を認めてもらった場合の判決の効力について法律で定めがあるためです。それは,「拘束力」と呼ばれるもので,簡単に言えばせっかく裁判所で行政の判断を覆してもらっても,それだけでは実効性がないので,判断に不可欠な理由(評価や事実認定)には行政サイドを拘束するというものです。ここでの拘束とは,裁判所の判断に従って行政がその後の対応をするという意味を持ちます。

 ここで面倒なのは,強い力を持つ「拘束力」がどこまで影響するかです。法律上は「その事件」とされているので,ここがどこまで及ぶのかという問題が出てきます。1審と2審はこちらを問題としています。「その事件」を言葉の上だけで見ると,最初の納税について金額が少ないという処分を指すだけのように見えます。遺産分割後の減額更正請求とそれを認めない処分(遺産分割による事情変更を踏まえた増額処分を含む)は背景は同じものの,事件としては別の処分と言いうるためです。

 これとは別に最高裁の判断で問題としたのは,相続税・税金一般の是正方法が法律上限定されていることをどう考慮するかというものです。是正方法が限定されているとは,納税者側からの是正を求める理由や請求するための期間が限定されているということ・行政官庁側も是正できる場合と期間の制限がされているという話です。言い換えると,ここで定められたもの以外の是正理由や期間制限を超えての対応が制限されている(できないのが原則)という点です。

 今回のケースでは遺産分割が決着したなどの事情変更を根拠とする是正請求で遺産の評価金額を問題としている点で,法律で定めている場合には当たりません。こちらを重視すると,是正は認められないことになります。行政サイドに1回目の裁判での判決に従う義務があるとしても,この義務がどこまで及ぶのかという点が問題になります。先ほどの「その事件」の範囲という意味もありますが,是正を行うことができる期間制限との関係もあるためです。期間制限を超えている場合に,行政が義務を負うのかという点です。判決の拘束力に意味を持たせるためには,1回目の裁判での争点と2回目の処分が密接に結びついているところからは,「その事件」の範囲に2回目の処分というものは含まれるといえるでしょう。

最高裁の判断では,期間制限をオーバーしている以上行政に是正の義務を負わせられないから,「その事件」の範囲に含まれるかを議論するまでもなく,拘束力は及ばないと判断しています。ここでは判断を避けているようには思われますが,十分に範囲に含まれる可能性があることを前提にしているとも言えます。

 

 

この判断の是非は今後議論されていくとは思われます。12審についてはかなりの数の評釈が存在しますし,今後最高裁判断についての評釈も多く触れる かと思われます。

最高裁の判断で期間制限と更正の請求が原則的な救済手段であるとしていることや例外の話を触れていません。今回のケースのように評価額等相続税法32条(相続税における事情変更を理由として特別ルールでの救済申し立て)ができる理由から外れる場合には,注意した対応が必要になるものと思われます。

メールフォームもしくはお電話で、お問い合わせ・相談日時の予約をお願いします

早くから弁護士のサポートを得ることで、解決できることがたくさんあります。後悔しないためにも、1人で悩まず、お気軽にご相談下さい。誠実に対応させていただきます。