法律のいろは

相続で,亡くなった方から生前援助を受けたことは,どう考えるのでしょうか?(その⑦)

2013年7月12日 更新 

 亡くなった方からの生前の援助を遺産分割でどう調整するのかということで何回か話をしています。よくある例の一つに,相続人の一人が亡くなった方(多くは親)と同居して,亡くなった方の持ち物である土地の上に家を建てさせてもらうということが挙げられます。家を建てさせてもらい,土地を使っていることは,何か遺産分割で考慮されるのでしょうか?

 

 繰り返しですが,遺産分割で生前援助を調整することを特別受益といいます。ここでは,土地をタダで使わせてもらっていることが特別受益として調整しないといけないかどうかが問題となります。

 通常,このような場合にはタダで土地を使わせてもらうために借りるということがあるはずです。法律上,使用貸借といいます。普通,生活のために家を建てさせてもらうことが多く,生計の資本を「土地をタダで使わせてもらう権利」の部分受けたと考えることになります。つまり,特別受益はあると考える考え方が主流と思われます。

 

 次に,特別受益として調整するのはどの部分になるかという問題が出てきます。

 使用貸借の権利がつけてある土地はつけていない土地に比べて,土地の価格が落ちるので,価格の落ちた部分が贈与額と考える考え方があります。一方で,タダで使わせてもらったのだから,家賃分(相場)が贈与額と考える考え方があります。どちらの考え方を取るのかという問題です。

 多くの例では,タダで使わせてもらう権利をつけているのだから,そのことによる土地の価格の下がった部分を贈与額として調整すべきと考えているようです。

 

 ちなみに,特別受益にあたったとしても,持ち戻し免除の意思を亡くなった方が持っていた場合には,調整は行いません。持ち戻し免除を行う手段については特に限定はありません。

 

 これまで触れていない話で,特別受益が存在した場合に,遺産分割での取り分を決めるに当たり,調整はどのように行うのかという点があります。これは,調整の対象になる贈与されたものの評価額(相続開始時を基準とします。価値が増えている場合には原則として増えた価値で算定されます)を遺産の金額(この遺産の金額に遺言で贈与するもの=遺贈するものが含まれていますので,加算しません)に加算します。贈与されたものの評価については,現物での贈与であれば相続開始時に存在するものは問題ありませんが,壊れてしまった場合にはその原因が贈与を受けた側(ミスで壊した・わざと壊した)には現存を前提にします(つまり加算対象)。これに対し,地震など不可抗力や贈与を受けた側に原因がなく壊れた場合には加算しないとする見解(ただし,保険金を受け取った場合にはそれを加算するとする見解もあります)があります。遺留分侵害の計算と異なり,負債は差し引きません。

 このように計算した金額(みなし相続財産の合計額,ここでいうみなし相続財産とは相続材の課税対象となる「みなし造族財産」とは異なります)を算出して,法定相続分で割った金額(遺産分割協議での取り分)を出します。この金額から遺産分割で取得する金額を計算しますので,生前贈与でもらった特別受益の部分について生前贈与を受けた方の取り分から差し引きます(すでにもらっているため)。遺贈がある方については,遺産分割協議とは別にすでに遺産から確保されることになるため,遺贈されたものの評価額を差し引きます。

 この計算をすると,特別受益に該当する生前贈与を受けた方の取り分がゼロになる(計算上はマイナスになることもありえます)場合には遺産分割協議での取り分はゼロになります。遺贈を受ける方で同様にゼロになることもありえます。マイナスになった場合の対応は計算の考え方によって変わりますが,見解が割れています。

 少しわかりにくいため,具体例などは次回に続きます。

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