法律のいろは

相続で,亡くなった方から生前援助を受けたことは,どう考えるのでしょうか?(その⑧)

2013年7月15日 更新 

 亡くなった方から,生前に援助を受けたことを遺産分割でどう調整するかということで,こままで特別受益とは何か・どんな場合があたるのかについて触れてきました。

 

 今回は,基本的な事の確認です。まず,特別受益とは,生計の資本について援助を受けた場合に,相続する方の公平の観点から遺産分割で調整しましょうというものです。注意する必要があるのは,まだ触れていませんが,亡くなった方が調性しなくてもいいという持ち戻し免除の意思を示した際には,遺留分を侵害しない範囲で調整されないということです。

 持ち戻し免除については次回以降に触れたいと思います。

 〇どの範囲の方が援助を受けた場合に問題となるのでしょうか?

 法律上相続人とされる方です。よくある問題として,亡くなった方が子どもである相続人の配偶者や子供に財産をあげた場合には,特別受益として調整できるのかという話があります。

 基本的には,相続人に対して援助するものではありませんから,特別受益として調整する必要は出てきません。

 ただし,いかなる場合にも調整しないということであれば,子どもや配偶者を使って簡単に抜け道を作ることができます。これでは,公平の点からの調整の意味がなくなります。そのため,例外として,実際には相続人に贈与する意志であると考えられる際には,ただの抜け道ですから,調整の対象になります。

 裁判例では,贈与をされた経緯や贈与されたものの価値や性質などを考慮して,実際には相続人への贈与かどうか判断したものがあります。

 農業などの家業については,子どもである相続人の配偶者が大きく貢献してくれた贈与するという場合があるかと思われます。これであれば,相続人への贈与とは考えにくいです。そういった事情がほとんどないのに,大きな金額のものを贈与するならば,抜け道と考えやすくなると思われます。

 

 〇特別受益による調整の計算を遺産分割協議ではどう行うのでしょうか(具体的なケース)

 

 持ち戻し免除がされない場合にどのように調整をするのかという基本的な考え方は前回触れておきました。ただ,少しわかりにくい点もありますので具体的なケースを考えてみます。

 ケースとしては,被相続人には相続人となりうるのは子供3人(AとBとC)だけである・遺産となるのは預金などで合計8000万円・これ以外にAに対して生前贈与として1000万円を与えた(相続開始時も同じ金額とする)・遺言で遺贈としてCに対して1000万円を与えているものを想定します。

 

 このケースでは,遺言ですべての配分を決め,持ち戻し免除の意思表示をすればトラブル要因は亡くなるでしょうし,その際には相続税の課税がなされるケースですので(遺産が基礎控除部分を超えています),課税への対応も可能な範囲で考えておいた方がいい場面です。ここではほかの修正要素はないものと想定します。

 

 ここでは遺産分割協議で実際の取り分(法定相続分はA・B・Cが各1/3ずつ)を考えていきます。

遺産である8000万円に生前贈与1000万円を加えた9000万円が「みなし相続財産」の金額です。

各自の相続分は1/3ですが,遺産分割協議で取得する金額を考える際には,生前贈与ですでにAが取得した1000万円を差し引き,遺贈でCが確保する1000万円をそれぞれAとCの取り分から引く必要があります。

 そうすると,遺産分割協議での取得分は

  A 3000万円(=(8000万円+1000万円)÷3)

  B 2000万円(=(8000万円+1000万円)÷3)-1000万円

  C 2000万円(=(8000万円+1000万円)÷3)-1000万円

 となります。ただし,遺贈でCは1000万円を別に確保できるので,相続自体ではAが3000万円・Bは2000万円・Cは3000万円を確保することになります。

 

 このケースではそうではありませんが,生前贈与の金額が大きいと先ほどのBの取り分がマイナスになる場合もありえます。この場合にBの実際の取り分はゼロですが,AとCにどのような影響があるのかは計算方法についての考え方によります。この考え方は複数存在しますが,有力な見解として

 ①各自のプラス金額部分のみを割合化して取得する部分を決める(マイナスは考慮しない)

 ②マイナス部分を各自の法定相続分で取得したうえで,計算上の取得額から差し引いて取得する部分を決める

 というものがありえます、①と②によって取り分が変わってくる点がありますので,どのような配分がいいかは検討をしておく必要があるでしょう。

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