法律のいろは

遺言が無効かどうかが問題となるケースとは?(その⑨)

2015年7月6日 更新 

 相当以前に,遺言が無効と判断されるような場合について何度か触れてきました。今回は,その補足的なことについて触れていきたいと思います。

 自筆証書遺言であれ,公正証書遺言であれ,遺言をされる方に遺言を残すだけの判断能力があったかどうかは大きく問題となるところです。このほか,公正証書遺言では,口で遺言内容を公証人の方に遺言される方が言う口授と呼ばれるものがあったか・自筆証書遺言では,実際に自分の手で書いたのかどうかが大きくいえば問題となります。

 遺言をするだけの判断能力があったかは,一つには遺言をした当時の心身の健康状態が大きな意味を持ちます。ですから,主治医の診断書の記載は相当大きく重視される要素になってきます。いわゆる認知症に遺言をした方がり患していた場合が問題になることは多々あるかと思われますが,単に認知症という判断が出ているだけではなく,長谷川式簡易知能評価スケールの点数(20点以下で認知症の疑いあり・15点を下回るとやや中程度等)やその他の所見も踏まえてのものになってくるところです。ただし,長谷川式簡易知能評価スケールにも限界がありますので,その点数だけでなく医師の所見や要介護度や認知症の進行が強くうかがわれる事情があるなどを確認する必要があります。認知症自体もアルツハイマー型以外に,脳血管型・レビー小体型認知症などが存在しそれぞれで症状も異なる部分があります。
 遺言の内容が単純であれば,少ない判断能力でも判断できたという事は一般的には言えますが,あくまでも心身の状況との兼ね合いになります。ですから,単純な内容であれば心身の状況がかなり悪く意思疎通などが難しくても,遺言をするだけの判断能力があるとは直ちには言えません。遺言の内容が相当に単純な場合であっても,複雑な場合よりは判断が簡単なもので済むというだけで,直ちに低い判断能力でも大丈夫というわけではありません。内容が大きく変更した場合には,その変更の程度や変更後の内容・変更の経緯なども問題となってきます。通常それまでの経緯から考え難い内容への変更やそれによって強く利益を受ける人間が遺言作成(や撤回)に関わっていたとなると,他の事情を踏まえての話になりますが,判断能力があってなされたものではないという話につながることもありえます。

 意思疎通をどの程度行う事が出来たのかは,公正証書遺言の場合の遺言内容を口で伝えたのかという点にも関わってくるところであり,心身の状況はコミュニケーションをどの程度行えたのかも含めて,様々問題になってくる場合が考えられるところです。
 また,遺言をしたころの生活状況は,心身の状況等を考えるうえでも一つの大きなポイントとなりうるところです。

 こうしたことで後でトラブルになるのを防ぐには,遺言をした当時に問題なかったことを証拠に残す(先ほど挙げたようなテストを受けてもらう・遺言を残す場面を記録する等)子とも考えられますが,どのように対応するかは状況に応じて考えた方がいいでしょう。

 この話と異なるものの,遺言が無効であることの原因として遺言それ自体の内容面での問題が理由とされる(法律上の無効原因が示されるわけではない)ケースも存在します。それは,記載内容からして無意味な遺言であるための請求を行うのが実態であるケース・異なるか解釈により請求を行うケースなどが考えられますが,法律上無効原因があるために無効であるとされるものとは異なります。無効が主張されてはいるけれども,実際は無効ではなく異なるものをいうのであるのかは,相手の言い分を聞いて整理する必要があります(裁判になった場合には裁判所から確認される話になります)。

メールフォームもしくはお電話で、お問い合わせ・相談日時の予約をお願いします

早くから弁護士のサポートを得ることで、解決できることがたくさんあります。後悔しないためにも、1人で悩まず、お気軽にご相談下さい。誠実に対応させていただきます。