法律のいろは

遺産分割協議後に合意の前提が事実に反することが判明した場合に,どのような対応があるのでしょうか?

2020年4月5日 更新 

 遺産分割を一度する際には通常問題はこれで解決した・後で判明した遺産については別途協議をする等の項目を入れるのが多いかと思われます。そのため,後で遺産が判明した場合にはそこで追加の協議をすれば問題はありません。ここでの話は,一部の遺産分割は有効に成立したことを前提に後で見つかった財産の遺産分割を行おうとするものです。

 これに対して,実際には遺産の前提となった財産が多く違っていた・負債が多く存在して支払いが危ぶまれる等の場合には協議内容を維持していいのかが問題になります。特に後者については負債の負担が大きければ,相続放棄をしたいというお気持ちから実際に相続放棄ができるのかどうかも問題になってくるでしょう。また,遺産分割を事実上やり直す(合意解除をして新たに協議をして合意をする,遺産分割の合意解除は全員が同意をする限りは可能です)こともありえます。ただし,別のコラムでも触れていますが,この場合には新たなお金の動きがありますので,課税上は贈与税などの税金の負担が生じることもありえます。

 

 遺産分割はそれによって問題が解決していますので,前提事項について思い違いがあり,その思い違いがなければ合意をしなかったであろうという事情があれば,法律上「錯誤」の主張ができる場合があります。ここでは思い違いの内容が決断に関わると一般に認められるだけの事情であるのかどうか・また裁判例上単なる動機で相手方が知らない事情であれば,こうした主張ができないので,具体的なケースごとの事情に照らしてみて,どうなのかをきちんと検討してみる必要があります。

 

 遺産分割の前提となった財産が多く違っていたというのであればその内容が何であるのかどうか・ご自身に分からなかった事情などが問題になってくるでしょう。ちなみに,2020年4月に改正された民法により,これまでは当然にそうした協議内容の無効を主張することができましたが,今後は取消をするまでは有効になります(錯誤の制度が当然い無効であるという話から取り消しができる制度にかわりました)。

 

 次に多額の負債があることが判明した場合には,こうした無効・取り消しを行うことができるかという問題とは別に相続放棄を行うことができるのかも問題になります。結論から言えば,無効あるいは取り消しをした後は相続放棄を行うことができる場合もありえます。これは,一度遺産分割協議をすると,相続放棄を行うことができない遺産を処分した場合にあたるため,相続放棄を行うことはできません。しかし,その遺産分割協議が無効あるいは取り消しによって効力を失うと処分自体もなくなるので,相続放棄もできます。

 ただし,先ほども述べましたように「錯誤」にあたる事情が存在するのかどうかが重要な話になってきますし,相続放棄には期間の制限が法律上設けられています。相続が開始したことを知ってから3か月以内ですので,遺産分割協議を行っている場合にはこちらの面でも問題になってきます。裁判例上は,こうした3か月のスタートについて,多額の負債が判明しそうした負債がないと信じた相当な理由があれば,負債の存在を知った時点からスタートすると述べたものがあります。その相当な理由がある場合が何か問題になりますが,亡くなった方の遺品などからそうした請求や負債を示す資料もなく長くその後請求もなかったようなケースが考えられます。財産を整理していて負債が抜けていることはそこまでは多くないかと思いますが,可能性としてはありますので,事情の整理や見通しを考えておくことには意味があるでしょう。

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