法律のいろは

遺産に属するかの問題(名義預金等の扱いその②相続税課税の場面)

2021年1月18日 更新 

 不動産や預金で子供や孫名義のものではあるが,お金を負担していないのではないか・名義だけではないかという場合にどう考えるのかは相続の場面に限らず難しい問題です。別のコラムで,相続人の間や相続人と第3者との間のトラブルの話は触れました。今回は相続税の課税対象になるのかどうかという点を触れていきます。

 

 相続税の課税対象は相続や遺贈で取得したものが基本となります(みなし相続財産や相続開始前3年以内の贈与等もあります)ので,その財産が遺産に含まれるのかは影響があります。生前贈与をしたのであれば贈与税の課税対象(贈与税の方が税率は高くなる傾向にあります)になりますが,その除斥期間(原則6年)を超えているものは相続税の課税対象にならないと課税ができないという点があります。そのためかは不明ですが,贈与かどうか問題になる・贈与をしたとしても相当前の財産についてはいわゆる税務調査でも名義財産かが問題になります。ここでは預金について取り上げます。

 前回取り上げたのは,主に差し押さえや相殺の対象になるかどうか(遺産分割の場面でも前提として同じ問題が出てきます)という場面での預金者(契約者の問題)がだれかという問題です。課税庁との争い(税務調査を踏まえて,国税不服審判所での不服申し立てあるいは更正処分等のの取り消し訴訟)の場面では最高裁の判断はありませんが,下級審の裁判例で判断要素が提示されているところではあります。

 

 この裁判例では,相続人の一人に全ての財産を「相続させる」との遺言が存在し,その後遺留分減殺請求(現在は遺留分侵害請求)がなされ,その後遺産分割調停の申し立てと調停の成立→相続税の期限後申告がなされたものです。その後に全ての財産を「相続させる」とされた相続人の名義の預金などの一部について被相続人の財産であるとして更正処分などを受けたことについて,名義預金かどうかが争われたものです。このケースでは,先行する遺産分割調停ではその相続人の財産に問題となる預金が含まれることを前提とした処理がなされていて,その影響を受けるのかどうかなども問題となっています。

 裁判所の判断は,あくまでも,相続税の課税対象になる相続財産に含まれるのかどうかが判断されています。別の裁判例で遺留分の計算の対象に含まれる相続財産を考える上での預金の帰属について,この裁判例の判断枠組みが使われるかどうかが争いになり,問題となる場面が異なるとして使われないと判断をしたものがあります。

 相続税の課税対象となる相続財産に含まれるのかどうかという点について,先ほどの裁判例では,①預金などの原資の負担者はだれか②預金などの運用や管理の状況(誰が運用管理をしていたのか)③運用や管理をしている方と名義人の関係(名義人の配偶者の場合には,配偶者が運用や管理を任されることはありうるので,あまり②の点が重視されない可能性がある)④預金などの利益(利息や配当など)をだれが取得しているか⑤管理・運用をしている方と名義人・被相続人の関係⑥名義人が名義を有することになった経緯,などを総合考量するとしています。総合考慮なので,はっきりとしたポイントはありませんが,先ほどの裁判例では運用管理を亡くなった方の配偶者が行い(配偶者が名義人),利益も得ていたという話があります。ただし,裁判所は配偶者が運用管理をすることはよくあるし,名義を配偶者にした経緯が被相続人がい分の死後のことを心配していたからということで贈与ということは難しいという点を述べて,名義預金(相続財産)であると判断をしています。また,遺産分割調停での扱いについても課税という公平が重視される場面では,相続人間の合意の手続きを考慮するのはおかしいと述べて考慮しないと判断しています。

 

 通帳や印鑑を管理し開設している方が名義人であれば,その方が先ほどの②から④の点はクリアするものの,被相続人が原資を負担して,運用管理者と被相続人の関係や贈与の有無(契約書や申告)等の経緯からは,名義預金と判断をされる可能性が十分にあります。贈与の有無や時期・経緯がどうなのかという点も重要になってきます。税務調査においては,通帳や印鑑の管理状況やだれの印鑑であるのかといった点は重視されますが,そこをクリアしても必ずしも名義預金にはならないというわけではない点には注意が必要でしょう。

 

 先ほども触れましたが,この判断(直接は地方裁判所の判断ですが,控訴審で高等裁判所も概ね同様の判断をしています)はあくまでも課税の場面を念頭に置いたものなので,それ以外の場面では当然には当てはまらないという点には注意が必要です。

 

 

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