法律のいろは

遺言の記載に不明確なものがある場合に,どう考えていくのでしょうか(その②裁判例で問題となったケース)

2021年1月25日 更新 

  遺言の記載に不明確な点があると,遺言が無効である・遺言として意味を持たないという言い分や解釈が割れる可能性があります。これまで裁判例で問題となったものもたくさんありますが,今回最高裁の判断が出されたものの一部を紹介します。

 

 一つ目は,「遺産は一切の相続不要」「全てを公共に寄与する」等と書かれた自筆証書遺言についてです。この文言が遺言として意味を持たないあるいは無効であるかが争われたケースで,裁判所は意味を持ち有効であると判断をしています。判断では,遺言書を作成した経緯やその際の遺言をした方の置かれた状況などを考慮して,遺言者の意思を推測して解釈していくとされています。ここでの解釈は相続人その他の解釈が割れている場合には裁判所が行うことになります。

 このケースでは,遺言書を書いた時点の状況’(証拠による事実認定が必要)などから,法定相続人に相続させたくないという意向・公共目的のために財産を役立てたいという意向を持っていたと判断しています。単に公共に寄与ということになると,仮に寄付と解釈するとしてもどこに寄付をするのか全く不明確であるとも考えられますし,実際こうした点を含めた事柄も問題となっています。公共のために財産を役立てたいという希望・それに役立つ団体への寄付という趣旨であると理解し,このケースでは遺言執行者が選任されていましたが,遺言執行者に具体的にどの団体に寄付するかを選んでもらうというのが遺言の趣旨であると解釈しています。

 ここで最後にどの団体に寄付するのかを決めてもらう点を解釈しているのは,仮に公共の役に立つように財産を使ってくれる団体といっても,数ある公益法人の中のどの団体化は全く特定されておらず,寄付(遺贈)先(受贈者)の特定がなされていないことになる(特定ができていなければ,遺贈は本来できないはずなので,無意味な条項となりかねません)ためです。

 

 実際にはそこまで争いなく解釈できるとは言いにくい面がありますので,トラブル防止のためには趣旨や受贈者を明確にしておいた方がいいでしょう。受贈者の負担も重くなりかねません。

 

 もう一つ取り上げますが,二つ目です。この遺言では,個別の方に贈与などするとの記載の後で,「遺言者は法的に定められたる相続人に相続を与える」(実際には旧仮名遣い)との記載があった点をどう解釈するのかが問題となったものです。このケースでは特殊な事情があり,遺言をした方の戸籍上の子供が,実はその兄の子供を自らの子供として出生届け出をした(つまり,戸籍上は子供として法定相続人になるものの,こうした届け出は実際には無効なために実際には兄の子として遺言者に子供がいない等一定の事情の下で法定相続人の一人になるにすぎない)という点があります。

 このケースでは「法的に定められたる相続人」とは,実際の法定相続人のことを指すのか・戸籍上は子供とされている(その意味で子供として法定相続人と戸籍上はなっている方)を指すのか,「相続を与える」の意味合い(遺贈ととることは可能か)が争いになりました。裁判所の判断は分かれていますが,最高裁は,このケースでの解釈では,戸籍上は子供とされている方に遺贈をさせるという趣旨での解釈が十分可能であると判断をしています(実際には,審理を尽くすために差し戻し判決)。

 ここでも,遺言者が遺言をした背景事情(兄の子を自らの子として届け出て事実上の親子としての生活を続けていた等)・背景事情をもとにした遺言者が認識していたであろうこと(法律の専門家ではないのだから,戸籍上の子供が法定相続人であると考えた等)などをもとに遺言者の意思を解釈しています。

 第2審前は遺言書の先ほどの文言からは,実際の法定相続人に対して相続させるという程度しか解釈できないとしていた点とは,考慮対象を変えることで解釈内容が変わっています。どこまでの事情を考慮するのかは難しいところですが,後で争いになるとどこまでの事情を考慮するのか・文言の解釈の問題など関係者の認識や利害等もあって話し合い解決が難しくなる可能性もあります。特に関わるお金が大きく隔たりが大きくなりかねない場合には,裁判での解決に至る可能性が高くなります。

 文言の明確化などトラブルの可能性を事前に詰めておく必要がありますし,自筆証書遺言の場合にも事前に専門家に相談をしておく方が無難です。

メールフォームもしくはお電話で、お問い合わせ・相談日時の予約をお願いします

早くから弁護士のサポートを得ることで、解決できることがたくさんあります。後悔しないためにも、1人で悩まず、お気軽にご相談下さい。誠実に対応させていただきます。