法律のいろは

遺産分割をする際に,具体的な取り分を算定する方法は?

2021年1月27日 更新 

 遺産分割協議をする際には,まず法定相続分と実際の取り分を指す具体的な相続分の違いを理解する必要があります。亡くなった方(被相続人)の生前に各子供が特に大きな生活援助を受けていない場合(法律上「特別受益」と呼ばれる調整要素がない場合)には,原則として両者は一致します。また,遺言なのでの贈与(遺贈)や死因贈与という契約による贈与がない場合には,単に遺産を法定相続分で分けるのが基本となります。「寄与分」という修正要素もありますが,特に親子や夫婦関係では法律上「扶養義務」という義務が存在します。この義務の範囲は広く考えられていて,実際上はなかなか財産の維持や増加のための特別な貢献とは評価されにくい傾向にあります。

 一致するというのは特に修正の要素がなければ,法定相続分と具体的相続分は一致するという意味です。この具体的な取り分を決めたうえで,実際にどの財産を取得するのかを現物分割・代償分割・換価分割などの方法で決めていきます。一部の遺産分割も原則として可能ですし,相続人全員の合意があれば,相続開始後に処分された財産が存在するものとして遺産分割を行うことも原則として可能です。後者の例外は全ての遺産が処分された場合です。

 

 これだけではわかりにくいので,具体例を取り上げてみます。

 Aさんは,配偶者Bと子供C・D・Eの3人がいます。Aさんには遺産が1億円あり,生前にCに500万円分の資産(相続開始時には1000万円の金額評価)をしており,遺言でBに1000万円を遺贈しています。

 

 このケースでは相続税の課税の有無の確認も重要ですが,そもそも遺言で全ての配分を決めておけば後はせいぜい遺留分侵害請求の問題しか生じないのが原則です。もちろん,遺言の記載に解釈の余地が出ると争になる可能性はあります。

 それはともかく,ここでAさんについて相続が生じたとすると,法定相続分は配偶者であるBが1/2で子であるCからEは各自1/6となります。

 そして,Cに生前贈与した財産が生計の資のための財産であれば,贈与の時期に関係なく「特別受益」により調整の対象となります。遺言で調整不要という「持ち戻し免除」の意思が示されていれば調整はされませんが,ここではそうしたものがないと仮定します。

 

 法定相続分通りの遺産からの取り分であれば

 Bさん→1億円×1/2=5000万円

 CさんからEさん→1億円×1/6=1666万6666円(小数点以下切り捨てで計算,実際には割り付けなどで処理します)

 

 Cさんは既に生前贈与で相続開始時評価1000万円の財産をもらっているので1666万6666円から差し引きとりぶんは666万6666円となります。また,遺産から肺臓分1000万円をBさんが取得するので,残り9000万円をどう分けるかが問題になります。そして,既に取得した1000万円は具体的な配分で既に取得したものとして扱われます。

 

 そのため,遺産分割の対象は9000万円で,先ほどの取り分を考慮して次の通りになります。ちなみに,生前贈与の評価は相続開始時の評価額によるので,値上げりしている際には調整額は大きくなります。

 取り分はBさん→5000万円ー1000万円=4000万円

     Cさん→666万6666円

     DさんとEさん→それぞれ1666万6666円

この取り分比率が具体的相続分となります。このケースでは生前贈与や遺贈による取り分が修正要素として考慮されています。具体的相続分比率はこのケースでは計算しにくいですが

 B:C:D:E=4000万円:666万6666円:1666万6666円:1666万6666円となります。

この金額を残る9000万円で案分して取り分を決めます。

 

 ちなみに,生前贈与が多い場合にはこの計算で例えばCさんがマイナスになることはありえます。この場合にCさんの取り分は亡くなりますが,他の方の取り分にどのような影響があるのかは見解が分かれています。代表的には次の二つの考え方です。

 ①他の相続人の具体的相続分に応じて遺産を分ける

 ②マイナス分を法定相続分などに応じて分けるという方法

 どちらの考え方をとるかで最終的な配分額には影響が出る可能性があります。

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