法律のいろは

換価分割により遺産分割をする際の税務や合意の注意点

2021年1月29日 更新 

 遺産分割の方法のうちに,特に不動産(家や土地・アパートなど)については売却をしてその代金を分けるという方法があります。この方法を換価分割といいます。対象となるものは遺産のすべての場合もあれば一部の場合もありえます。他のコラムでも触れましたように,その不動産をだれが取得するのか・代償金をどうするのかという点でもめている場合には必ずしもこの方法をとることはできません。ただし,代償分割というこの方法は支払い能力面や公平の観点から最終的に裁判所判断に至った場合に認められるとも限りません。こうしたケースでは最終的には換価分割での解決に至ることはありえます。

 

 この方法をとる場合には,対象となる不動産などの遺産の一部あるいは全部である財産については,各相続人が相続をしたうえで売却をするということになります。相続と売却という二つの場面で課税の可能性が出てきます。そのため,解決の際の条項を決めるにあたっては,誰にどれだけの税金(譲渡所得になりますから,所得税が相続税とともに問題となります)が発生しるのか・税法の特例によって軽減などがどうなるのか(譲渡所得を考える腕の売却代金から差し引く取得費の関連等)などを考えていく必要があります。最高裁の判断では売却代金自体は遺産分割の対象ではありませんが,負担が大きいとトラブルになりかねないので,税金の負担を考えてどのように解決内容を詰めておくのかは重要な話になります。

 ことに,相続税は遺産評価額(債務控除後・非課税部分は加えない)が基礎控除を超えて存在する場合に発生する可能性があるのにすぎませんが,所得税は特に購入したのが相当昔である(購入代金がほぼない)・購入した金額が不明(法令上,概算取得費(購入代金など)となり,売却代金の5%となります)の場合には課税の可能性が出てくるので面倒な点です。同様に,売却をする場合に仲介業者(不動産会社)に依頼すれば決済時に仲介手数料が発生しますし,登記移転の際の費用(司法書士報酬や登録免許税)・印紙税や測量費用の負担が生じることもあります。こうした費用の差し引きや負担の内容を考慮しておくことも必要になります。

 

 先ほどの取得費は,売却金額からその経費の性質を持つ購入費用や購入代金を差し引くことができる(売却費用も差し引けます)部分を指します。所得税(譲渡所得)は売却時に実現する含み益への課税ですから,プラスが出れば税金の負担の可能性があります。細かなことを言うと損益通算といって他の所得のマイナス分を差し引けること等もありますが,実際に課税されるかは注意が必要です。課税される場合には,保有期間が5年(譲渡した年の1月1日時点)を超えているかどうかに応じて税率が変わってきます。

 この取得費や評価額から差し引く(税額軽減)の措置(税法の特例措置)がいくつか定められています。一つは換価する財産が居住用不動産の場合に3000万円を控除するというものです。ここでは詳細は触れませんが,相続の日から3年以内の代金1億円以下の譲渡であること・亡くなった方のみの居住用不動産であることなど使える場合にいくつかの縛りが存在します。ちなみに,この特例は亡くなった方の居住用不動産の売却でない場面では使うための前提が異なります。

 この制度とは併用できませんが,相続税の申告期限後3年以内に売却をする形での換価・相続税が生じている場合には,一定の計算方法で計算された相続税額の一部を取得費に加算することができます。これらの方法は,課税される部分が減る形になります。このほかに,居住用不動産の所有期間が10年(亡くなった方の所有期間を含む)を超えていれば税率軽減がされることもあります。

 

 こうした方法や負担が生じる可能性があることを考慮の上で,先ほどの費用負担分(売却が先行している場合には不必要)や税金負担・手残り金の配分を決めていく必要があります。売却前であれば,不動産の共有割合や売却することと各種費用の清算を行う・税金の負担内容を取り決めておくことになるでしょう。売却後であれば通常費用生産は終わっているでしょうから,その金額の確認や税金の負担内容・取得するお金の割合を取り決めておくことになります。また,換価分割(売却のみ)を先に同意し代金額の配分を後で決める際には税務申告については注意点があります。相続税が課税される場合には売却後とりあえず法定相続分で申告し納税を行い,配分決定後に修正申告(津8以下納税がある場合)・更正の請求(納めすぎで返してもらう部分がある場合)をすることはできます。これに対し,所得税については売却後とりあえず法定相続分で取得したとして申告をしてしまうと,申告期限後に配分決定をする(遺産分割協議が成立)時点では各相続人が法定相続分の権利を譲渡した(この譲渡に課税される)点は変わりようがないために,配分に沿った税金の調整ができなくなります。仮にここでの話し合いがつく際にはこの点をどう考慮するのかも意識をしておく必要があります。

 税金関係は評価額や特例の活用ができるのかどうかを事前に専門家と相談し協議をしながら詰めておくことでトラブルの防止へとつながっていくものと思われます。

 

 

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