法律のいろは

自分に対して負債を負っている方の相続持分差し押さえの際の注意点・遺言が存在する場合の遺留分侵害額請求権の行使は可能?

2021年3月4日 更新 

 負債を負っている方に対してのお金の回収は公正証書がない場合には判決など裁判所での取り決めにより差押えが可能である書類(債務名義と呼ばれるもの)の取り付けが必要になります。これらの書類があって必要な書類その他を取り寄せれば,相手の財産に対して差押えを行うことができます。令和2年4月に一部改正内容が施行された回収に関わる法律で相手の財産などについての情報取得に関する手続きが拡充されました。

 相手の財産には相続によって相手が取得された財産も含まれます。この場合にはその相手が自分で相続の登記をするとは限らない(令和3年2月現在相続登記の義務化の動きはあります)ことや仮に遺産分割としてその方が取得しないという決着に至る場合もありえます。特に後者の場合には遺産分割に基づく登記よりも先に法定相続分に応じた相続の登記とそれに基づく差押え命令の取得と登記を得ておく必要があります。要は早い者勝ちが原則となります。差し押さえ命令の申し立てをするにあたっては先に相続の登記を終えておく必要があります。

 この相続登記は,相続人の代わりにお金の回収のための相手の財産保全のために行うものになります。。そのため,先ほど触れました書類(債務名義と呼ばれるもの)を取得していることが前提になりますし,相続登記に必要な固定資産税額その他の資料も差押え命令の取得の前提として行うことを示して取り寄せる必要があります。登記自体は司法書士の先生にお願いする方が多いと思われますが,戸籍関係はともかく固定資産税などの関係資料は弁護士らの請求(差し押さえ命令の申し立てを目的とするもの)でないと取得はできません。

 先に相続の登記や差押え目入れの取得を得ておけば,遺言がない場合にはお金の回収を相続持分の売却などから図ることができる場合があります。これに対して,遺言が存在しその中で負債を負っている方が全く財産を取得できない場合には相続登記自体が実態と異なっているため結局のところ差し押さえによる回収を図ることができなくなります。この場合には登記の早い者勝ちというわけにはいきません。

 

 この場合に遺留分侵害額請求(昔の遺留分減殺請求)を債権者側が行使できるのであれば遺留分に該当するお金の回収を図ることができます。ただし,現在の最高裁の判例では遺留分減殺請求時代の判断ではありますが,こうした回収を認めていません。その理由とする相続開始自前までは回収の対象として不確定要素があるから回収の期待の保護は薄いという点はともかく,遺留分減殺請求が行使によって発生する権利である・権利行使は法律上行使するかどうか本人の意思に委ねられ債権者が代わりに行使できる性質のものではないという点は,遺留分侵害額請求についても当てはまっているように思われます。そのため,法改正後も遺留分侵害額請求を代わりに行使するという方法での回収は難しものと思わえます(ちなみに,回収の期待を保護すべきであるとする見解は存在します)。

 補足しますと,債権者がお金の回収のために負債を負っている方が持っている権利を行使することを許容する法律の規定には,負債を負っている方が行使するかどうかの意思に委ねられている場合には許容されないとしています。ここに当てはまるというのが理屈になります。ちなみに,遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)はその権利者の子供等が権利行使を引き継ぐことができると法律上されていますが,それとは別個の話になるという理解になります。

 

 負債を負っている相手の親が遺産を持っているという場合にそこから回収をという期待が出てくるところではありますが,遺言の有無や内容は分からないところがあります。また,そのことが重要な意味を持ってきます。そのため,相続があるからと期待をするか・遺留分の権利行使をするよう求める(強要行為は当然ですが行うことはできません)かという話しもありますが,どこに回収のめどがあるかは注意をしておく必要があります。

メールフォームもしくはお電話で、お問い合わせ・相談日時の予約をお願いします

早くから弁護士のサポートを得ることで、解決できることがたくさんあります。後悔しないためにも、1人で悩まず、お気軽にご相談下さい。誠実に対応させていただきます。