法律のいろは

民事信託を使っての財産管理。受託者の注意点とは(その①)?

2021年2月24日 更新 

 ここ数年「民事信託」その他の名称で高齢の方の財産管理や財産管理と遺言の代用・障がいをお持ちのお子様の生活を考えた財産管理などのために,信託と呼ばれる方法を使ったスキームの提案が多くなされているようです。このスキームの提案は金融機関・司法書士・税理士・行政書士・弁護士などのいわゆる士業等様々な方がしているようです。

 他方で,遺留分逃れの方法ではないか・受託者と呼ばれる財産管理をする側の負担の問題・きちんとした財産管理をすることができるかどうかの監督の問題・財産管理以外の身の回りの世話(身上監護)の問題をどうするのかなどの問題があります。遺留分の問題については数年前に判決が出る等,士業などが関わることが多い契約書作成の場面以外にその後の運用を含めトラブルにならないようにすることも重要な話となってきます。

 

 まず,信託契約による財産管理は非常に長期間に及ぶことが想定されています(期間の設定自体は任意ですし法令上最大限の期間はあります)。他人のために財産管理を行う方を受託者といい,行として行うことは信託業法の規制上できませんし,近年多く広まっているケースでは委託者の親族が受託者になるケースが通常と思われます。仮に親子であっても,法令上負う財産管理に関する義務は存在しますし,信託契約や遺言での定め(信託行為)の内容によっても軽減できる部分には限界があります。

 また,財産管理の中でアパートを建てる等の目的のために融資を受けるということがありえます。この場合の借り入れを行うのが誰かという話しがあり,委託者なのか・受託者なのかという点が問題となります。委託者の判断能力に問題がない場面ではどちらかというのはありえますが,信託契約を行った後で判断能力が低下するとなると借り入れを受ける契約ができません。この場合には受託者が財産管理の一環として借り入れを行うことになります。こうした負債は信託法上「信託財産負担債務」と呼ばれます。信託による財産管理で生じた負債のことを指し,この中には信託財産(元々委託した方の財産)のみから支払いをするものもありますが(信託財産責任限定債務と呼ばれます),受託者の財産からも支払いをしないといけないのが原則です。言い換えると,返済のために受託者自身も全責任を負わないといけないということになりますから,借り入れを行う際には単に親族とはいえ他の方の財産の話だからと安易には考えられない面があります。

 この債務については,信託の終了(財産管理の終了)が「委託者の死亡」とされていて,終了時の引継ぎをする方が定めらえていない場合に相続税の点でも問題が生じる可能性があります。それは,あくまでも受託者の負債ですから委託者の負債として相続税の計算を行う上での財産から控除を行うことができる(債務控除)の対象になるのかという話しです。委託者が連帯債務者になっているとか・そもそも「委託者の死亡」を終了原因にしないように定めをもうけておくなどの方法も対策として挙げられているようです.どのような対応がいいのか難しいところになりますが,問題になる可能性はある点は意識をしておいた方がいいでしょう。

 

 このほか,信託財産として受託者が管理している財産と受託者自身の財産はあくまでも別物ですし,信託財産となった以上は委託者が亡くなった際の遺産となる財産からも外されます。例えば,遺留分侵害額請求が受託者なされた場合に,支払いは受託者個人の財産(信託財産からの支払いは不可)になります。委託者が親である場合に,その遺産分割が生じた際に信託財産も遺産分割の対象にするという場合も本来分別管理すべき財産を混同して処理しているということになります。

 このほかにも,受託者となることの問題がある(利益相反が問題となる場合など)ところですので,専門家と相談しながらスキームだけでなく,その後の財産管理をしていく必要があるでしょう。

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