法律のいろは

遺産分割協議で大きな代償金が出る場合の注意点(相続税の連帯納付義務との関係)

2021年5月20日 更新 

 遺産分割協議をする際に,不動産など一定の財産を特定の相続人に取得させる代わりに,他の方は代償金をもらうという方法を代償分割とする点は他のコラムでも触れています。遺産分割調停などでは,お金の支払い能力の面などの問題から「特別の事情」がある場合のみしかできないとされています。また,代償金を支払う方に分割までの時点で支払い能力がない場合には「債務を負担させる方法」による分割は裁判例上許されないとされています。

 

 多額の相続税が課税されるほどのケースでは,代償金も相当額になることが考えられます。当初支払いができるのではないか・その能力があるとされている場合には,先ほどの許されない場合には当たりません。しかし,支払いのための期限を設けた場合には,その後の支払い能力の悪化により,代償金が支払われない可能性があります。支払いが受けられない点でも痛手となるところですが,相続税がかかるケースでは,法律上の税金支払い負担として「連帯納付義務」というものが設けられています。

 これは,法令上相続税は法定相続分で各相続人が遺産を取得した前提で合計額を定め,各相続人は実際の遺産などの取得分に応じた相続税の負担額を負っています。しかし,これではお金が無くなり税金支払いができない相続人が出てくる可能性があるので,法律上特別の税金徴収手段として,遺贈や相続で各相続人が取得した金額の範囲で,支払いができない相続人の相続税負担を負うという制度になります。

 そのため,代償金の支払いをしない相続人がいて,支払い能力が遺産分割後になくなった方が税金を支払われないとすると,税金の支払い負担まで負いかねないという問題が出てきます。

 

 このコラムを書いている時期から見て最近の時期に,代償金が支払われないケースで相続税の連帯納付義務が問題になった裁判例が存在します。争点や内容は多岐にわたりますが,ここでは関係ある部分のみ単純化して紹介します。

 問題となったケースは,特定の相続人の方が不動産を取得する・代償金を他の方に支払い,支払いは他の相続人が相続税を納税するか先ほどの特定の相続人が別の不動産を売却ができるかどちらかができた時点とするという遺産分割協議をしたものです。遺産分割協議後に不動産を取得した相続人の支払い能力が悪化し,代償金の支払いはされず,相続税も一部しか支払いができず,他の相続人に相続税の連帯納付義務を財務当局側から求めたというものです。他の相続人は,相続税の申告をし自らの相続税の納税はしています。

 このケースでは,その後代償金支払いの義務が履行されないということで,遺産分割協議の解除がなされ,改めて遺産を代償金支払いを行うことができなかった相続人が全て取得するという遺産分割協議がされています。

 

 今回触れた話との関係では,後で遺産分割協議がなされているけれども,相続税の連帯納付義務を負う場合の「遺贈や相続で得たお金の限度」とはどこを指すのかという話しです。相続税の申告時点(当初の遺産分割協議の内容)によるのか・解除後に行った遺産分割協議に基づくのかというのが問題となります。実際の裁判では,他にも争点があります。前者でいえば,代償金等当初の遺産分割協議で取得した金額から納付した相続税(自らの部分の税金)を差し引いた金額となります。後者でいえば,何も得ていないのでゼロということになります。

 結論から言えば,裁判所の判断は前者になるとしています。相続税の連帯納付義務が徴収のための特別の法律で定められた責任であること・連帯納付義務が,相続税の確定申告等にともなって相続税の納付義務が確定することに伴い法律上当然に発生するものであることを踏まえて,相続税の確定申告等を行った時点の金額であるとしています。法律上の更正等の手続き(納税義務の変更を一定の場合について認めた手続き)を経ない限りは,申告時点からは変わらないことになります。

 この裁判例自体は地方裁判所の判断ですが,高等裁判所でも維持されています。

 

 こうなると,当初の遺産分割協議とそれに伴う相続税の申告や納税をした後の事情の変化(代償金の支払いができなくなったこと)は連帯納付義務の関係では考慮されないことになります。したがって,特に大きな代償金の支払いが問題になる場合には,その回収とともに関係して税金面を含めた支払い能力・支払い期日を短くするなどの対応が重要になってきます。

 

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