法律のいろは

民事信託による財産管理(その③,遺言や後継ぎへの財産移転)

2021年5月25日 更新 

 信託方式を使った財産管理は,様々な目的のために契約条項を定めることで対応することが可能です。今回は,遺言との兼ね合いについて触れておきます。遺言をもって信託条項を定めておくことが可能ですが,遺言の代用手段として信託契約をすることも可能です。代用手段を使う意味合いとして,遺言についてはいつでも撤回可能であるとされるのに対して,信託契約の場合にはそうはいかないという点があり,ここに重きを置く場合などには意味が出てきます。

 例えば,特定の子供あるいは孫に特定あるいはすべての財産を最終的には譲りたい,今後自分の面倒を見るかわからないし,子供の仲が悪く遺言の撤回などの問題が起きかねない場合が想定されます。特に判断能力が低下した後に,相続人となるだろう子供の一人が面倒を見ている場合に撤回や新たな遺言書が作成されるケースではトラブルとなる可能性があります。相続人の中に浪費その他で問題がある方がいる場合には活用を考えた方がいい場面もあるでしょう。いわゆる使い込みの可能性が出てくるためです。

 

 そうしたことを防ぐために,元気なうちに信託契約書を作り,信頼できる方に財産管理を任せ,財産から利益を受ける方・信託終了後の財産を取得する方を決めておくことができます。このことによって,最終的な財産を引き継ぐ方も決めることができますので,遺言による財産の引継ぎと同じ意味を持ちます。ただし,遺留分侵害額請求の可能性を持つものですし,税金面でのフォローをしておく必要があります。さらに言えば,財産管理を任せる方は,信託業法という法律が存在することもあって,専門家に任せることはできません(信託会社に任せることは可能ですが,費用が相当かかります)。通常は信頼できる親族に任せることになると思われます。

 

 一つの契約内容としては,ご自身が生きている間は税金面の問題や自らの財産から得る収益は自分の生活に使いたいという希望もあるでしょう。受益者(利益を受ける方)をご自身とし,その後孫あるいはその他の方を受益者とする・最終的な財産の帰属先を決める(信託契約での信託期間,財産管理を任せる期間は無期限ではありません)という内容が考えられます。他のタイプの信託についても言えることですが,財産の管理期間が長めであるその他負担が大きい場合には,財産管理を任される方(受託者)の報酬を定めておくこともありえます。

 税金については,先ほどの方式であれば,信託を設定した方自身のご存命中には課税の問題は出ず,その後に相続税の課税がなされることになります。

 

 これとは異なる遺言で信託を設定することについても少し触れておきます。今まで触れていたものは,契約による方法ですが,現在の法律では,委託する方=受託者=受益者となる場合の「信託宣言」という方法や遺言による方法も可能です。遺言による場合には,当然遺言をされた方が亡くなってから信託の効力が生じることになります。遺言の方式自体は公正証書遺言でなくてもかまいませんが,項目をきちんとしておくことやその後の手続きを円滑に進めることを考えるならば,公正証書遺言の方がいいように思われます。

 この方法は特に生前に財産管理に制約を受けたくない場合に適した方法ではあります。ただし,今回の記事で最初に触れた判断能力が落ちてきた段階で遺言を撤回し新たな遺言をすることで当初の意向が守られなくなる可能性があるなど,いざという場合と最終的に引き継がせたいと考えている内容がはっきりしていて変わる見込みがない場合にはデメリットもありうる方法です。

 

 どの方法がよくて,どの方法が悪いというわけでもありません。信託方式を活用する場合には,税金面の問題(大きく節税になるケースはないように思われますし,贈与税や相続税の問題があります)・目的との関係などを考えて,どの方法がいいのかを考えていく必要があるでしょう。

 

 

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