法律のいろは

「相続させる」遺言と法改正を踏まえた注意点

2021年12月28日 更新 

 公正証書遺言・自筆証書遺言を問わず,「相続をさせる」という遺言はよく使われるように思われます。この種の遺言は別のコラムでも触れていますが,今回は平成30年法改正(令和1年7月1日施行)による変更部分の話を触れておきます。改正部分は,簡単に言えば「相続をさせる」との遺言が存在しても,法定相続分を超える部分は登記をしておく必要が出てきたという話になります。

 

 これまで最高裁の判例上,「相続させる」という内容の遺言が存在した場合に,相続開始時(遺言をした方が亡くなった時点)に,当然に遺言の内容に沿って権利等を引き継ぐとされていました。そのために,登記をしなくても引き継ぐ内容を誰にでも主張できると捉えられていました。登記とか誰にでも主張できるというのは少しわかりにくいところですが,登記という制度を少し触れておきます。不動産登記に関して言うと,土地や建物の所有者等を公にしておく制度で,仮に所有者が変わるなどの事情が発生した場合にはその事情を登記することによって公にしておきます。令和3年の法改正で相続登記の義務化という話が設けられましたが,相続の際も権利が引き継がれるという話になります。

 このうち,例えば売買や遺産分割などのやり取りで権利者が変わる場合には,法定相続分といった法律上当然に引き継ぐ形と内容が異なることになります。この場合に誰が権利者かを明らかにするために登記をしておく必要があります。法律上は「対抗要件」とよばれて,権利が競合する利害関係を持った方が現れた場合に,登記をしておかないと権利があるということを主張できないのが原則であるという制度となっています。先ほどの話でいうと,遺言で法定相続分以上の権利を相続人の誰かに特定の家や土地について与える場合には,相続開始後にその内容で登記をしておかないといけないという話になります。

 

 仮に登記をしない場合にどうなるのかという話を触れておきます。例えば,ある土地を特定の相続人のかたが「相続させる」遺言で引き継いだとします。当然に引き継いだからということでおいていた場合に,他の相続人にお金を貸している方などが差押えを行うために相続の登記を行い法定相続分部分について差押えをするとその旨の登記がなされます。実際には,他の相続人は権利を持っていないわけではありますが,「相続させる」内容の遺言に沿った登記をしていない場合には,そのことを差し押さえをした方に主張できないデメリットを受けてしまうことになります。

 改正前は,当然に引き継ぐので登記は不要とされていましたが,諸般の事情から先ほど述べた登記が必要という内容に変更されています。自らの権利を守るためには,「相続させる」相手となっていた相続人は登記をしておく必要があります。実際にこちらの方が多いと思われますが,遺言で遺言執行者が定められている場合には,現在では遺言内容の実現のために「相続させる」内容の登記を行うことが可能となっています。また,通常は行う形になるかと思われます。このことに関連して,遺言執行者が行うことができる業務となった事項でこれまで議論があった部分の一部についての改正も行われています。このように,改正内容が行うべき事柄にも影響を与えています。

メールフォームもしくはお電話で、お問い合わせ・相談日時の予約をお願いします

早くから弁護士のサポートを得ることで、解決できることがたくさんあります。後悔しないためにも、1人で悩まず、お気軽にご相談下さい。誠実に対応させていただきます。