法律のいろは

一定の義務の履行を求める負担付き遺贈の遺言について,義務を履行しない場合に遺言の取り消しはできるのでしょうか?

2022年3月19日 更新 

 遺言で特定の方(子どもといった法定相続人を含みます)に遺産を残す(遺贈・相続させる)ことは実際上よくあるところですが,その際に一定の義務の履行も求める内容にしておく場合があります。例えば,誰かしらの生活費として○万円を毎月支払うとかその他特定の事柄を行ってもらうというものです。これは法律上負担と呼ばれ,負担をつけた遺贈(相続させる)という遺言も可能とされています(ただし,相続税に関する評価で注意点があります)。ここでいう義務の履行はするしないによって遺言の効力に当然に影響しませんので,遺言をした方が亡くなると遺言に従った財産の変動などが生じることになります。

 

 ただし,義務が履行されない(先ほどのケースでは生活費を支払わない等)場合に一方で遺言者の意思が守られないのに他方だけ守られるのは,遺言者の意思を実現するという遺言の目的に反することから,一定の場合に取消の制度が認められています。これは,相続人から遺贈を受けた方に義務を一定の期間までに履行するよう求めたのに履行してくれない場合には,家庭裁判所に遺言の取り消しを求めることができるという制度です。相続人の意向だけでなく家庭裁判所の判断が介在されることになります。家庭裁判所の判断を介在させるのは,義務の履行を独立して求められる場合に相続人の一方的な都合で取り消しが可能とすると家庭裁判所の判断も介在させることで遺贈を受ける側の利益も考慮するという意味合いによるとされています。

 

 家庭裁判所は,義務の内容や不履行の程度・遺言者の意思として読み取れるものや遺贈を受ける側の不利益を,相続人や遺贈を受ける側の話も聞きながら,遺言の取り消しが遺言者の意思に沿うのかどうかを判断するとされています。その際には,不履行の事実が遺贈を受ける側に落ち度があるのかどうかも考慮されることとなります。法律上は遺贈について規定されていますが,審判例では「相続をさせる」という遺言についても同様に考えられるとしています(比較的最近の事例として仙台高裁令和2年6月11日決定)。負担付きの「相続させる」遺言が遺産分割の方法の指定ではあるが,法律上の意味合いとして遺贈に類似しているからというのがその理由とされています。

 実際にはどのような事情が考慮されるのかを今触れました仙台高裁令和2年6月11日決定に即して触れていきます。このケースでは遺言を遺した親が子どものうち一人に遺産を相続させる・他の病気を抱えた子供に対する生活費を援助するよう求める遺言であったというものです。遺言をした方の生前毎月定額の援助をしていたという事情があったものです。援助が一定期間なされないことを理由として取消の申し立てがされたことについて1審と2審では異なった結論となっています。

 このケースでは遺言書の内容として毎月の生活費の援助の内容が具体的に定まっていなかったという点で特徴があります。決定文からは家庭裁判所の審判移行前に解決についての話し合いが行われ,支払いを求められた側から音信がなかなかできない状況でいくら援助すればいいかわからなかった・決められたが金額を支払うという話とともに解決案が提示されたという事情もあったようです。2審では,1審と異なり取消までは認めていません。その理由として,遺言書の記載からはいくら援助が必要かは分からないし音信状況からもやむを得ない点がある・援助をすべきとされた遺産を引き継いだ側も金額が決まれば支払う意向を示している点を考慮して取り消しをすることが遺言をした方の意思に沿わないからとしています。

 

 遺言をした方の生前の援助額が大きく参考になることから,この金額で援助をしていれば履行していないという話は言いにくくなるかと思われる一方で金額が不明であるという点があります。病気を抱える親族がいる場合に音信がないに近い状態になるといくら必要かは分かりにくい点は確かに言えるところではあります。このケースでは事実関係を精査して判断しています。全てのケースについて当てはまるわけでもありませんし,支払いをする意向がない・不払いが長く続いているケースでは必ずしも同様の結論に至るとは考えにくいかと思われます。そのため,遺産をもらった側の対応として責めるべき事由があるのかなどを検討して取り消しを求められた側は対応をする必要があります。そもそも,トラブルを避けるために遺言をする時点で内容は可能な限り決めておいた方が無難という面があります。

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