法律のいろは

高齢の方が養子縁組をした場合に,その有効性が問題となった場合に考慮される事項とは?

2022年3月24日 更新 

 高齢の方が養子縁組をする場合に,縁組意思がなかった・判断能力がなかったという重なりうる話ですが,これらの理由を根拠に有効性が問題になることがあります。相続対策(遺留分を減らすその他)のために孫を養子縁組する場合があり,相続税対策(相続税法上養子のカウントについて制限があります)でなされたケースについて,縁組をする意思と相続対策をしようとする意思が併存することから,縁組意思がないとは直ちには言えないと判断した判例が存在します。

 いずれにしても,養親子関係をつくろうという縁組を行おうという意思があること・この意思があることと関わるそもそも縁組をする判断を行うための最低限の能力があるのかどうかがここでの問題となる事柄です。

 

 最近の裁判例(横浜家裁令和2年2月25日審判,不服申し立てされず確定,全文は判例データベースに記載あり)では,亡くなる前の年に孫と養子縁組を行った80歳代後半の女性の健康状態や経緯などから見て,養子縁組が無効かどうかが問題となったものがあります。事実関係は裁判所の判断からしかうかがわれませんが,養子縁組の届け出の用紙のうち養親の署名などの欄を養子になった方側の方が行い,押印された印鑑が代筆した側の方が保管していたという事情が存在します。また,養子縁組をした時期のころには認知症の診断を受けたということで長谷川式簡易知能スケールや介護保険用の医師の意見書の内容等からの認知能力の問題などが記載されています。

 このケースでは,養子縁組に至った経緯や認知症その他の養親となる方の検討常体や判断ができる状況にあったのかどうか・養子縁組をする動機があったといえるのかどうか・養子縁組の経緯などが考慮されています。そして,養子縁組をするうえで作成する養子縁組届の署名や押印を養親になる方が行っていないこと・代筆になった経緯や以前他の契約書類で代筆などを評価しています。そして,裁判所の判断では養子縁組自体が養親が代筆で本人が書いていないことや押印された印鑑も本人のものかどうかに重大な疑義があることを踏まえ,養子縁組届がそもそも養親の意思を示すものとして成立していないと判断しています。縁組意思がなかったともいうことができますが,ここではそもそも養子縁組届が成立していない(書類が養親と養子の意思に基づいていないと法律的な意味を持つ書類として作成したものとは言えない)という判断となっています。

 

 契約書であっても,こうした届けであっても,法律的な意味を持つ書面は作成された(成立した)ものと評価されないと法律的には意味を持ちません。これは,作成者とされる方の意思に基づき作成されていなければならず,署名や押印が本人のものである必要があります。押印された印鑑がその本人の印鑑であればその方の意思に基づくものと推定されますが,別の方が保管し本人以外にも使うことができる場合には,その意思に基づくものとは言えなくなります。

 養子縁組届が作成されたといえなければ縁組意思もありませんし,背景事情から判断能力面に問題をうかがわせる事情があれば,判断能力の話もさることながら,作成をその意思に基づいて行ったは言いにくいという事情につながるとも考えられます。このケースではこうした縁組意思や判断能力とも関係しますが,そもそも代筆や押印された印鑑について問題をうかがわせる事情がある場合に,養子縁組届が作成されたとはいいがたいと判断することで文書面でのアードルをクリアしたかを検討しています。文書面で代筆や押印で問題がある場合には,こうした判断につながるリスクがありますし,そこにつながる事情として経緯や動機,健康状態など様々な事情も考慮されることを示したものと言えるかもしれません。

 

 このように,養子縁組はその有効性が問題になる可能性は相続との兼ね合いが問題になる場合を含めありえますので,仮に相続対策で考える場合にはこうしたリスクも考慮する必要があります。

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