法律のいろは

成年後見と任意後見の優先関係,親族間でトラブルがある場合に任意後見契約をした場合には?

2022年3月28日 更新 

 高齢の方についての財産管理については法律で定められた成年後見制度の他に,任意後見(契約に基づくもの)が存在します。これらの制度は身上監護という身の回りの世話のための事項を含むもので,御本人の財産の一部または全部を本人の財産とは分別して管理する信託制度を活用したものが存在します。ご本人の判断能力が落ちた段階では法定後見制度(成年後見制度)の活用しかありませんが,その近い時期に任意後見契約を締結した場合には,その有効性とともに成年後見制度とどちらが優先するのかという問題があります。

 

 法律上,御本人が元気なうちに示した意思を優先するために,任意後見制度(契約を締結していた場合)を使える場合には成年後見制度よりも優先すると規定されています。ここでいう優先とは,任意後見制度が契約として存在する場合には任意後見監督人の選任の申し立てをして選任されれば成年後見の申し立てによって開始することはないとされています。ただし,法律上はご本人の利益のために特に必要がある場合には成年後見が優先するとされており,ここでいうご本人の利益のために特に必要がある場合とはどのような場合かが問題になってきます。

 こうした場合としては,任意後見制度で与えた代理の範囲が狭く,広範な代理が可能である成年後見制度の活用がご本人の状況からみて必要な場合や取消や同意の権限付与が必要な場合も該当します。このほかに,親族間で対立が存在し,その中で一定の目的のために任意後見契約が締結され,親族の対立とは別にご本人の利益保護を図るために,諸事情を考慮すべきという見解も存在します。ここでの一定の目的の関係でいえば,御本人の判断能力が落ちている状況で成年後見の話が出た・このことに対抗してすぐに任意後見契約が締結され任意後見監督人選任の申し立てがされる場合にはトラブルになる可能性が高くなります。

 

 公表されている裁判例上は,成年後見を優先するもの・任意後見を優先するものがそれぞれ存在します。その中の一つの事例である福岡高裁平成29年3月17日決定では,親族間の対立その他の事情があるケースで任意後見契約における受任者(管理などをする方)とご本人の間で利害対立が存在する・誤本院をめぐって親族の間で対立が存在しうち一人を受任者としての適格性がないこと等を述べて,御本人のために特に成年故意う件にする必要性があると判断しています。これに対して,1審が成年後見制度を優先する判断を覆した事例(高松高裁令和1年12月13日決定)が存在します。このケースでは,本人の利益のために特に必要があるケースは①任意後見人の権限が狭い②任意後見人の定めた報酬が不当に高い等契約が不当である③任意後見人に不適格な事情が存在する④任意後見契約の有効性に大きな問題がある⑤ご本人が法定後見を優先する意思を示している場合,等を挙げています。このケースでは,これら①から④の事情がないことを検討し任意後見制度を優先すると判断しています。ごく最近の事例(水戸家裁令和2年3月9日審判・判例タイムス1480号・253頁)では,御本人をめぐる親族間の大きな対立やそれまでの事情を検討したうえで,ご本人の利益のために特に必要があるかどうかを検討し,成年後見開始を優先すると判断しています。

 

 実際にどちらが優先するかはケースごとの事実関係によりますが,法律の規定上は例外的に成年後見の優先を定めているものの,事情の検討から諸事情を検討する形になるものと思われます。ご本人をめぐる対立が親族に存在する場合には,任意後見契約が存在すれば当然にその通りになると考えるべきではなく,ご本人のために成年後見が優先する可能性の検討はしておいた方がいいでしょう。

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