法律のいろは

法律上の特例が適用される場面なのかの注意点(小規模宅地の特例等②)

2022年4月1日 更新 

 相続に関する法律上の特例である「小規模宅地等の特例」について,前回このテーマで増えれた際に一部触れました。生活の拠点・事業の拠点である宅地について処分に制約が加わることで経済的価値が下がるために,相続税を考える際の財産評価で考慮される制度になります(事業引継ぎを図るためという側面もあります)。一定の要件を満たす必要があることや他の制度との兼ね合いで併用ができるもの・ないものがありますので,注意が必要です。例えば,個人事業主の方に関する相続税や贈与税の納税猶予(個人版事業承継税制)の適用を受ける場合には,この制度を使うことはできません。

 

 この特例を活用するには,亡くなった方が居住用・事業用に使っていた宅地等で,一定の建物や構築物の利用に使われているもの・亡くなった方と同一生計(財布が共通である)方が居住用・事業用に使っていた宅地等で一定の建物や構築物の利用に使われている必要があります。これは相続開始の時点での特例適用となる宅地等について必要となる事項です。

 したがって,一定の建物や構築物が存在していなければこの特例を活用することはできません(ただし,判例やそれを受けた課税通達上の例外はあります)し,ここでいう事業用(亡くなった方が営む事業・株式を半分以上持っている会社が亡くなった方から土地を借りて事業を営んでいる)という要件を満たす必要があります。宅地等を相続税の申告(相続の開始よりは後になります)まで持っていないといけない・事業を引き継ぎ継続していないといけない,建物に継続して住んでいる等の要件があります。したがって,相続したその宅地等をすぐに売却した場合にはこの制度を活用できない場合があります。

 引き継ぐ方についても,会社の役員であること(亡くなった方が株式の過半数を持っている会社の事業用地であった場合)・配偶者か同居の親族(同居の親族や配偶者がいない場合に自らの所有の家がない等の要件を満たせば他の親族)がなることができます(後半は居住用の宅地等です)。

 

 比較的最近の裁判例(横浜地裁令和2年12月2日・東京高裁令和3年9月8日)において,亡くなった方と相続した方が「同一生計:であってこの特例を適用できる場合なのか等の点が問題になったケースがあります。以下では,特例の適用をできるのかだけを触れていきます。このケースでは,亡くなった方が所有する土地を相続した方が自分の事業用地として使っていた・相続した方が亡くなった方の成年後見人であったという事情が存在します。この特例を適用するには,先ほど触れましたように・亡くなった方が所有している宅地等があり,・亡くなった方と同一生計の親族が,その事業用のために使っていた・一定の建物や構築物が存在する,等の事情が必要となります。ここでは,このうちの相続人が亡くなった方と「同一生計」であれば,今の話の2つ目の要件も満たし問題なく制度を活用できるという話になります。

 成年後見人は被後見人(このケースでは亡くなった方)の財産管理や身上監護の義務が存在しますから,自らの財産とは区別して管理するとともに利益が反しないために,収支も区別されている必要があります。亡くなった方の収入で生活をできません。このケースでは全く家計管理が別にされていました。生活も別に家で行い,相続人の方も亡くなった方を確定申告において扶養する親族として扱っていなかったという事情もあります。

 裁判所の判断は,この特例の制度趣旨を生計を共同にしている等生活基盤や事業基盤に宅地等が使われている場合には処分制限がある⇒宅地等の経済的価値が下がり,相続税を負担する能力である遺産の経済的価値が下がるため,財産評価で考慮するものとしています。ここでは,相続人の方が営む事業で相続人の方と亡くなった方の生活が営まれる事情があれば事業や生活の基盤になるので処分制限が加わるという点を考慮し,ここを「同一生計」の意味としています。このケースでは先ほど述べた別の家で生活・お金の管理も別で特に亡くなった方に援助もしていない・確定申告上でもその事情を前提とし亡くなった方が扶養を受ける親族とされていない,点を踏まえて要件を満たさないと判断しています。

 

 この判断からすれば,成年後見制度を活用していても,後見人となった相続人になる親族が自らの収入から亡くなった方の生活費の補填などをする・一緒に生活をする,等の事情があれば,ハードルをクリアできることになります。成年後見制度や任意後見制度を活用するにしても,こうした特例の適用を見据えて何がいい対応かを考えておく必要があります。

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