法律のいろは

生前のお年玉などの援助が遺産分割協議でどう取り扱われるのでしょうか?(特別受益と持ち戻し免除についての比較的最近の裁判例から)

2022年4月21日 更新 

 遺産分割の際の調整事情の中で,既にもらっている部分を調整すべきというものが問題となることがあります。生前贈与ではありますが,入学祝や結婚祝いのようなものから家を購入する際の資金までその内容は様々です。また,その証拠が残っていない金額など不明確になっていることもあります。

 遺産分割の際に,生前「生計の資本」の贈与を受けている場合に相続人の方の公平の関連から「特別受益」と呼ばれるものとして扱って調整をするかどうか・仮に「特別受益」になるとしても,調整免除の意思が示されている(遺言であれば明確ですが,なくても亡くなった方の言動などから示されているといえる場合があります)のかどうかが問題になります。今回は比較的最近の裁判例で問題になったものを踏まえつつ,この問題を取り上げていきます。

 

  一般に亡くなった親からその生前に何かしらの援助を受けていたとしても全てが調整される対象になるわけではありません。親から子どもには扶養義務がありますので,この範囲内である・一般的に見て親から子供に行う援助レベルであればわざわざ調整の必要性がないためです。そのため,お年玉や入学祝などは多くは調整対象から外れるでしょうが,自宅購入費のように生活に関わりかつ金額の大きなものや遺産と比べて金額が大きい場合は調整の対象になる可能性が高くなります。どこからが対象になるのかが問題となります。贈与した金額の絶対額は当然需要ですが,名目や贈与した側の収入や財産。受けた側の収入や財産・社会的に見てどうとらえられるか(贈与時点で)等を踏まえて,公平の観点から調整の必要があるのかどうかという話になります。贈与時点にもよるでしょうし(例えば,50年程度前になれば今とは物価水準も大きく異なります),その人の特性によっても異なってくるので一概には言えないところがあります。

 先ほど触れました比較的最近の裁判例(東京高裁平成30年11月30日決定・家庭の法と裁判31号90頁)を取り上げます。このケースでは生前の贈与(2件分)が「特別受益」に該当して調整対象になるのかどうか・亡くなった方からその対象から外す意思が示されたと評価できるのかが問題になりました。昭和51年ころの贈与(自宅購入用か祝い金かで争いがあります)・その後の自宅購入資金名目の贈与が決定の内容から問題となったようです。先ほども触れました当時の絶対額(比較的最近であれば物価の問題はないように思われます)等の事情から,その一部を特別受益と判断しています。特別受益を争う側は,通常これが認められても調整不要という意思が亡くなった方により示されている(持ち戻し免除の意思を示す)ことで調整不要であるという反論を準備することが多いようですが,このケースでも問題となっています。

 通常こうした意思は遺言などで明確に示されていない場合に問題になりますので,そう評価できる言動があったといえるかが争いになります。一般に贈与をした動機や金額,亡くなった方ともらった方との関係性・贈与時の亡くなった方の健康状態や金銭状態などが考慮されるとされています。贈与をする強い動機があり,関係が良好で判断に問題がない等の事情があれば調整不要へと傾きやすい面があります。このケースでは贈与の動機などを考慮の上,調整不要という意思を示していたものと言える(結論として調整不要)と判断しています。

 

 遺産分割で問題とよくなりうる争点の一つではありますが,遺産分割で協議をする際にはこれらの点が家庭裁判所の手続きではどうなるかを見据えての対応も必要となってきます。

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