法律のいろは

会社に名義株が存在することは相続にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

2022年4月30日 更新 

 かつては,会社設立時に発起人と呼ばれる方が複数必要であったこともあって,設立者(通常代表者)以外に名目上株主になってもらうことが多く存在しました。実際に出資をしていなければ実際は株主ではありませんが,名目上株主として記録が残されることになります。会社法上は会社はどんなに小規模なものであっても株主名簿を作成し変更の都度書き換えをする必要がありますが,実際には作成されているケースは小規模な会社や一族経営の会社では少ないように思われます。その場合であっても,法人税の申告書の別表2と呼ばれる部分に法人税法上の同族関係者(株主の構成と割合で判定)かを判断するために,株主と出資割合が記載されています。

 ここに記載されている事項は株主が誰であるのか・どの程度の株式数を持っているのかの手掛かりとなるものです。ただ,名義だけの株主(名義株)かどうかの記載があるわけではありませんから,出資の記録が残っていない・その他書面を残しておかないと時間の経過とともに,その方が名義株であるのかどうかが分からなくなりかねません。

 

 出資関係の記録が残っていないことになると,誰も文句を言わずに時間が経過するとなると,名義の方が株主と考えるのが自然と捉えられかねません。そうなると,株式という財産を持っていることになるので,将来遺産に属するのかどうか争いになりかねない財産が存在することになります。また,持っている株式数によっては会社法上少数株主に与えられている権利行使を行うことができることになりかねません。そのため,いざというときに会社経営の足かせにもなりかねないという問題が出てきます。株主総会は本来決議事項については開催しなければいけないのが原則ですが,原則に該当する場合でも開催していない・招集手続きに問題がある場合には株主総会で決めるべき事項(経営用の重要事項である場合もあります)の効力が覆る可能性もあります。裁判の可能性や問題への対応には手間がかかるため無視はできません。さらには,相続税法における株式の評価に影響を与えかねない場合もありえます。

 また,事業の引継ぎ(事業承継)を行おうとする際に,株式を後継者に集中させようとする場面では,名義株だと考えて株式を後継者名義に一方的に変更したところ,後で株主かどうかが争われた場合には,大きな紛争になる可能性があります。また,事業承継税制と呼ばれる贈与税や相続税の納税猶予制度を活用するための手続きをとっている場合にはその要件を満たさない(話が崩れてしまう)可能性があります。

 

 対応策としては,財産関係で問題が起きないよう出資の記録を残しておくか・名義を借りた方との間で覚書を交わしておくことが事前の方法としてはありえます。こうしておけば,財産関係の証拠あるいは合意があることから,原則はこの資料によることになります。そのほか,名義貸しなのかどうかが分からない場合には話し合いで解決することもありえます。その場合には,買取を行うほかに,スクイーズアウトと呼ばれる方法(株式併合と呼ばれる方法など)を使い,株主から追い出すというものも考えられます。既に株式全体の90%を特定の方が有している場合にはその株主が買取を行う制度が法律上存在していますが,常に使えるわけではありません。文献で出ている複数種類の株式をお受けている場合に,強制的に会社が取得できる株式があれば活用できますが,小規模な会社ではこうしたこともそうはないものと思われます。

 多くは話し合いで買い取り等を行うことがありえますが,名義変更料その他の支払いが税務上実質贈与とされるとそこに税金負担が出ますし,株式併合を活用する差には手続きその他要件に注意する必要があります。反対株主(この場合には名義株主とされた方)から買い取り請求がなされる可能性があります。この場合の買取価格は裁判所が諸事情を考慮して決めることになりますが,財産評価基本通達で定められているものとは異なる可能性が十分にあります。

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