法律のいろは

相続税の申告を税理士の方に依頼した場合に,ある財産を外して伝えたことはペナルテイの対象になるのでしょうか?

2022年4月13日 更新 

 遺産分割の協議や遺留分侵害額請求の問題とは別に,遺産の金額の金額次第では相続(相続税法上公平の観点などから加算される保険金や贈与対象を含む)に関する相続税の申告が問題になることがあります。きちんと相続税の対象となる財産を適正に評価して申告をする必要があります。財産漏れや評価間違いは,後で税務調査を受けた場合に,過少申告や隠ぺいによるペナルテイを受ける可能性があります。税金上乗せ(加算税)のほか,悪質性が高ければ犯罪として立件される可能性もありえます。

 相続税の場合には亡くなった方の生前の収入や財産額等から一定の財産漏れがありそうな方等に対して,税務調査がなされる可能性があります(財産評価間違いなどがある場合もありえます)。この,相続税の対象財産の漏れが単なるうっかりとした話なのか・意図的に隠したのかによってペナルテイの程度は変わってきます。後者については,「仮装・隠ぺい」行為によって少ない申告に至った(申告をそもそもしない場合には別途重いペナルテイがあります)場合には,ペナルテイによる税金の加算も重くなります。もっとも,正当な理由がある場合には話が別です。

 

 ここでいう「仮装・隠ぺい」行為は,裁判例上ケースごとの判断にはなりますが,故意に基づく不正行為で書類の廃棄などの行為(隠ぺい)や別人名義の財産にしておくなどの行為(仮装)が該当します。特に重い負担が課される根拠として判例上では不正手段を用いた場合に特に重いペナルテイを課すことで適正な納税申告と納税を行おうとするものとされています。特定の財産を申告対象から外す等隠ぺいや仮装意図を持っていてそれに基づく行為がなされていれば,積極的な行為がなくても足りるとされています(相続税のケースではありませんが,最高裁平成7年7月28日判決)。

 例えば,遺産に属する預金を引き出して自分の口座に移し,その後相続税の申告対象から外していれば,今述べた行為に該当する可能性は高くなります。個人の地を問う必要がなければ税務調査で特に意図を確認されることはないでしょうが,微妙である場合などには糸の確認のために聞き取りがなされることもあるようです。供述録取書(話を聞き取った内容をまとめ確認するもの,作成者は聞き取った税務官庁の職員,質問応答記録書と呼ばれているものです)が作成されることがありますが,そこで事実関係として財産漏れがある場合や隠ぺいなどの可能性がうかがわれる場合には,その意図や経緯の回答によっては隠ぺいなどの意図の根拠となる可能性があります。この書類自体にはあくまでも税務調査(行政調査)により任意に作成されるものですから,作成に応じるかどうかを考えた方がいいこともありうるでしょう。

 

 比較的最近の裁判例(福岡地裁令和1年10月30日判決LEXSDB25590205)では,遺産分割協議書に亡くなった方から相続人の一人が自らの口座で預かっていたお金が含まれていない・生前贈与分(遺産ではなくても,亡くなる3年以内での生前贈与されたお金は相続税の対象となります)が相続税の申告書に含まれていないというものです。前者の遺産分割協議書に含まれていないお金も相続税の申告書から外れています。そのため,漏れているものがその部分で加算税の対象にはなりえますが,隠ぺい行為と認められればその加算分は大きくなります。このケースでは相続税の申告を税理士の方に依頼しており,当然その打合せ等で遺産の内容や相続開始前3年以内の生前贈与の内容を聞かれていたけれども回答がないために申告内容に含まれなかったというものです。

 以上は判決で認定された事実の概要に基づくものですが,先ほどの最高裁の判断で上げられた要素をもとに,隠ぺい意図があるかどうかが判断されています。打ち合わせで出てきた財産一覧表や回答内容(相続開始前3年以内の生前贈与を否定)等の税理士とのやり取りなどの事実から隠ぺいの意図があってそれに基づく行為である者と判断されています。つまり,隠ぺいによるペナルテイが認められ(裁判としては重加算税の賦課決定処分の取り消しを求める裁判であるため)取り消しを認めていません。

 

 個人の意図はそれだけでは判然としませんので,遺産分割協議書や相続にまつわる手続きで残っている資料ややり取りから判断されることになります。この程度の内容でもペナルテイが重くなる可能性があるので,よく注意をしておく必要があります。

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