法律のいろは

相続放棄の申述機関が期間経過後も認めるべき事情が認められた最近の裁判例

2022年5月4日 更新 

 亡くなった方に多くの負債があるなどの事情で相続人の方が相続をしないという状態にするためには,相続放棄の手続きをする必要があります。その方がなくなったことを各相続人が知ってから3か月が経過する・その他法律が定める相続放棄ができなくなる事情がない限り行うことができます。面倒なのは,期間経過をしてしまうことです。期間が経過してしまうと家庭裁判所に相続放棄の申述手続きをしても却下されてしまうので,期間制限をしているのかどうかはかなり重要な話となります。

 

 既に他のコラムでも触れていますが,例外的に期間制限に対する救済をする場合を定めた最高裁の判断や裁判所の判断もありますが,かなり限定されています。最高裁の判断(最高裁昭和59年4月27日判決)では,相続財産がないとその相続人が信じており,そう信じた正当な理由といえる事情が存在する場合であるとされています。ここでの相続財産がないというのが,実際に全くないというのは一部相続財産はあるけれども通常は相続放棄をするだけの事情がある場合(負債の方が圧倒的に多い等の場合)を含むのかという点については争いがあるとされていました。

 比較的最近,相続放棄の期間制限のスタート及び家庭裁判所での相続放棄の要件の判断に関して,判断を行った裁判例(東京高裁令和1年11月25日決定,判例タイムス1481号74頁)があります。家庭裁判所の判断では期間徒過のため相続放棄の申述が却下されたものについて,その判断を覆したものになります。

 決定の文章における事実認定からは概略,両親の兄弟姉妹の方で長年音信不通であった方がなくなり,市役所から不動産の固定資産税に関する書類が届き,相続人の中から代表を決めてほしい等の記載があったという事情が存在します。このことから,相続人の方が被相続人の方が亡くなったという事情と相続人らしいということを認識したという点・相続人の方たち自体にうち一人が相続放棄を代表して行えば相続放棄を全員行えたと誤解したという事情があります。この誤解のため(相続放棄は各相続人自体が行う必要があり,期間制限なども各相続人ごとに問題となります)問題となる相続人については,期間制限に引っかかるという点があります。

 こうした事実関係の下で,2審の判断では,相続財産などに関する情報不足や相続人自身の年齢(決定文からは70歳を超える年齢)・亡くなった方と相続人とのこれまでの関係(疎遠期間が極めて長く,役所からの手紙が来ないと相続関係かすらも容易には分からない状態であること等)や相続放棄手続きへの誤解などから見て,やむを得ない事情により遅れたものであるとしています。このことによって,期間制限のスタート時点を後ろにたおし,役所関係者から相続人が書類だけでなく相続放棄の手続きは各相続人が行う必要があること・具体的な固定資産税の滞納額等の説明を受けた時点からとしています。

 後ろたおすとは,相続があったことを知ったといえるのは,その形だけからすると固定資産税に関する書類が役所から来た時点(そこで相続人の代表を定めてほしいという話や不動産があること・亡くなった方自身の死亡の話が出てくるため,相続開始や相続人であることを知るのはこの時点)であることから問題となります。相続財産である不動産の存在はこの手紙で相続人が認識したこととなるため,先ほど触れた最高裁の判断で,相続財産がないと信じたといえるかどうかという点で難しい話になる可能性がある(相続財産が全くないとは言えないので,そう信じたと考えると救済されないことになります)点で問題となったものと思われます。

 

 また,2審では家庭裁判所での相続放棄の申述がなされた際に裁判所サイドで判断をすることについて,相続放棄の要件を欠くことが明らかな場合以外は却下するだけであとは受理すべきであると判断しています。その根拠として却下してしまうと相続放棄ができない⇒負債を引き継ぎ支払い負担を負うことになるなどそのダメージが大きいこと・受理を裁判所がしても相続放棄の要件を満たしていることが確定するわけではないことを挙げています。

 

 最後の審理に関する話がどこまでの拘束力が他の件にどこまでの影響があるのかは高等裁判所の判断ではありますが,定かではありません。また,最高裁の判断との関係は不明ですが,相続人の方の年齢などの属性や具体的なケースごとの財産だけでなく負債など相続放棄をするだけの情報を認識していたのか(認識できないことがやむを得ないのかという事情があるかどうか)等も考慮される可能性があります。また,一般に相続人側の相続放棄に関する誤解は救済はされない傾向にあるように思われますが,このケースでは考慮されており,他の事情との兼ね合いでは考慮の可能性も出てくるものと言えるのでしょう。

 救済される場合自体は限定される点はこの裁判例からも言えますが,受理をするのかどうかは審理に関する点からすると,却下される場合は期間制限など外形上明らかな場合になるものと思われます。

 

メールフォームもしくはお電話で、お問い合わせ・相談日時の予約をお願いします

早くから弁護士のサポートを得ることで、解決できることがたくさんあります。後悔しないためにも、1人で悩まず、お気軽にご相談下さい。誠実に対応させていただきます。