法律のいろは

相続税申告の場合に,通達から逸脱した評価が是認される場合とは?(ごく最近の最高裁の判断)

2022年5月6日 更新 

 相続が発生した場合に,基礎控除と呼ばれる金額を相続税の対象財産の金額(負債などを差し引いたもの)が超えていれば,相続税の申告・納税義務が生じます。相続税の対象財産≠遺産であるため,相続開始前3年以内の贈与財産や生命保険金などの点に注意するとともに,租税特別措置法を含めた評価特例(小規模宅地等の特例等)や評価の仕方がどうなるのかは大きな問題となります。

 この評価の仕方には,国税庁が出している財産評価基本通達に基づく評価や一部は相続税法における評価もありますが,この通達通りの評価でいいのかどうか・逸脱がありうるのかはこれまでいくつも裁判例が存在しています。

 

○財産評価基本通達の位置づけと逸脱評価がありうるのか

 相続税法では「取得時の時価」評価をおこなうという一般的な定めの他には,ごく一部の財産について評価方法が定めている以外には評価方法は定めていません。この評価の仕方(ただし,時価というよりは標準価格を定めている)のが財産評価基本通達ということができます。あくまでも時価をどのように評価するのかという点の解釈を示したものです。

 面倒な点は,ここでの評価はあくまでも相続税での財産評価という面の話であって,遺産分割などで当然にこの金額を前提に評価を考えることにはならないという点です。例えば,不動産について都市部で路線価によるとは限りませんし,郊外であれば固定資産税評価額の倍率評価をするとも限りません。上場していない会社の株式(大半の会社はこちらに該当)についても,株主の属性や会社規模(従業員や売り上げなどにより区分)によって分けられる評価方法による評価とも限りません。コストをかけて評価するのであれば,公認会計士の方による評価(収益や純資産等を用いた評価)もありえるところです。

 

 本題に戻り,あくまで相続税の評価という面で実際上問題となる場合(国による更正処分)等を争う場合には,評価方法に問題がある・個別の評価の前提事項が異なる・このほかに,評価通達通りにによるべきでない特別の事情があるというものがあります。

 これまで裁判例の中では多くは,この財産評価基本通達が一般的な評価方法としての合理性を持っていることを前提に,前提事項面での特別な事情や評価通達によるべきではない特別な事情があるのかどうかが問題にされてきました。先ほどあくまでも標準価格という意味合いが通達による評価にはあると述べましたが,この金額でも時価を越えなければ問題ないというものです。

後者の場合にあたるのかどうかが今回取り上げるケースで問題となったものですが,こちらにも2つのパターンが存在します。

 一つ目が,納税者側から財産評価基本通達通りの評価方法では時価を算定できない不合理な事項があるという根拠をもとに,通達とは異なる評価をする場合です。この場合,例えば,不動産であれば不動産鑑定による評価と通達による評価に大きな差があること(鑑定の方が相当小さくなる)・それを基礎づける宇う辰の評価通りでは不合理な評価となる事情が存在することが問題となります。

このパターンでは,不動産鑑定が前提事項を含めて適正であることは必要ですが,それに留まらず通達通りの評価をするのでは不合理といえるだけの根拠が裁判例上では要求されています。

 二つ目は,通達通りの評価を行って相続税の申告をした後に,国側が税務調査などによって通達通りの評価を不合理と考えて別の評価方法に基づく課税処分をしてくるものです。税金が少ない=財産評価が低すぎるということを前提とするものですが,この場合でも通達通りで評価することが不合理であるという事情の有無が問題となります。もちろん,別の評価堂々の合理性も同様に問題となります。ごく最近令和4419日に最高裁が判断を示したのがこちらのケースです。

 

 二つ目のケースでは,納税をする側に税金を低くして納税を逃れようとしているのではないかという点も問題になりえますが,時価の評価の話にここを含めてよいのかという点も一応の問題としてあります。というのも,こうした租税回避と呼ばれる問題は相続税でも「同族会社」と呼ばれる株主数などが限定された会社にを利用した租税回避行為を規制する規定があること・税金関係の規制は法律のある範囲で行うべき(評価の解釈で示すべきではない)という話があるためです。

 問題となる通達の定めは概略,通達通りの評価を行うのが著しく不合理な場合には,国税庁長官の指示を受けて評価する,というものです。一部報道でも「伝家の宝刀」と呼ばれるもののようです。ここの「著しく不合理」の意味内容として,ある評価方法と通達の評価方法による評価の差が著しく大きいというだけの話なのか・それに加えて不合理を基礎づける事情としてどこまで要求されるのかという話になってきます。

 これまで多くの裁判例では,「著しく不合理」の意味内容に,租税回避をする意図なども考慮できるとしてきました。評価方法ごとの金額の差が大きいというだけでは,一般的な方法論あるいはこの財産に用いるのが不合理かどうか分かりにくい場合もあるので,税金を大きく抑えようとする意図があるのは通常から逸脱している根拠の一つとしてこうした考慮を行うことはありうるものと思われます。問題はどこまで行けばという話ですが,こちらは他の事情も考慮してということになるものと思われます。

 

○最高裁令和4419日判決のケース

 このケース(1,東京地裁令和1827日判決・2,東京高裁令和2624日判決)では,90歳前後の亡くなった方が83700万円で不動産を購入(そのための借入63000万円)・同様に55000万円で不動産を購入(そのための借入42500万円)をした・銀行借り入れ分の稟議書に相続税対策のための借入との記載があったという事情があります。また,亡くなった方は不動産管理などを業とする会社を経営し,今述べた購入や借入はその事情引継ぎを円滑に進めるためという面も持っていました。

 これらの不動産の通達による評価額の合計はおよそ33400万円弱になること・相続税の評価では,通達による評価をしたものの合計から負債などを差し引くので,先ほどのケースでも借り入れが大きい点もあって,評価特例も活用し通達による評価をした場合には最終的に納税不要という話となっています。これに対し,国の側が不動産鑑定士の鑑定を行い,これに基づいて課税処分を行っています。ちなみに,購入から亡くなるまでは3年余り期間があります。

 

 この裁判での争点は,①通達から逸脱した評価がこのケースで許されるのか②逸脱した評価の際の手順の問題③その他,とありますが,主に①について触れます。結論から言えば,裁判所の判断は1審から最高裁まで一貫してこのケースでの逸脱した評価(不動産鑑定による評価)を是認しています。

 その際に「著しく不合理」と言えるのかどうかという点について,1審と2審では直接判断しています。問題となっている不動産購入の経緯(借り入れの際の稟議書の記載から租税回避の意図を推認)・借り入れと不動産の購入をしない場合との課税対象の評価金額との乖離幅,借り入れと購入によって評価が大幅に下がったことを根拠として不合理であると判断しています。

 ここでは,問題となる購入や借入による評価への影響の内容をもとに,その原因としての租税回避意図を客観証拠から読み取って判断をしています。そのうえで鑑定評価の合理性があるからということで,通達から逸脱した評価を正当と判断しています。

 

 最高裁の判断では,2審までの判断が相続税法に違反した評価かどうかが問題とされていたため,判断事項は国側による鑑定評価が時価評価の在り方として違法かどうかという点となっています。時価を上回らない評価であれば違法ではないという観点から鑑定評価は時価だから違法ではないと判断しています。このことは,通達は行政内部の規制であるため,実際上は納税者に拘束力を持つけれども適法性判断は相続税法の時価を上回るかどうかという原則から判断するとしたものと言えます。時価評価を上回る評価は違法だけれども,低い場合には納税者側有利になるから違法ではないという観点からのものと言えるでしょう。

 続いて,通達からの逸脱は平等原則の問題として判断しています。これは,通達は大量に存在する相続税申告処理のために用いられているため,そこからの逸脱は平等原則に違反するものとしてとらえ,正当化できる場合にあたるかどうかという話として対応しています。そこでは,通達からの逸脱には,画一評価では租税負担の公平に反する事情が必要としたうえで,1審・2審が「著しく不合理」な場合にあたるのかどうかで考慮した購入・借り入れによる影響や租税回避の動機を考慮しています。

 

 

 この違いが,通達にいう「著しく不合理」と言える場合が平等原則から見た租税負担の公平の問題になるものを示しているように思われます。通達にそこまで読み込むことは困難なものの,結局はここに行きつくという話(結局どちらにしても考慮している要素は同じため)になろうかと思われます。言い換えると,通達は行政の取り扱いとして基本的には同一取り扱いをすべきだけれども,取扱いに関して不平等な取り扱いが許容されるべき事情があるのかを平等取り扱いの問題としてとらえるということになります。そういう意味では,時価評価の解釈そのものに評価以外の要素は含まれないことになるでしょうけれども,結局は別の事情で考慮されるということになりますから,租税回避といえる事情があるのか・対策による格差が大きいのかはよくスクリーニングをしておいた方がいいということになるでしょう.あくまでも例外的な取り扱いということなので,主には租税回避なのかが問題になるケースで得そうした事情が認められる場合に問題になるものと思われます。

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