法律のいろは

遺言の記載内容から,その前提条件が満たされないことで無効と判断されたケース(裁判例)

2022年5月10日 更新 

 遺言書の記載内容の解釈が問題となることや,そこから実現できる遺言なのか無意味な遺言なのかなどが問題になることは他のコラムでも触れていますが,ありうる話です。特に遺言をする方自身が作成する自筆証書遺言では他の有効性の要件とともに問題となることがありえます。このほかに,遺言書を作成する際に内容などを欠いた書類の他に書類を入れる封筒の記載内容を含め,遺言書全体との関係でどのようにとらえるのかが問題となることもありえます。

 比較的最近問題となったケースとして,東京高裁令和3年4月13日判決LEXDB25590688・,1審は東京地裁令和2年7月13日判決LEXDB25585783が存在します。判決文からは,相続人の一人の方が相続で取得した預金の支払い請求を行い,他の相続人の方が遺言が効力を失った(という意味で無効)であることを前提とした請求を行うというもののようです。

 

 問題となった遺言では親夫婦のうち,一人の方が残した遺言の有効性が大きな争点となっています。その遺言は,夫婦の一方やその他の相続人に相続させるとの記載や生前贈与の記載等がなされています。遺言書は封筒に入れてあり,その封筒裏面に「配偶者よりも遺言者が死亡した場合」との記載がありました。その配偶者の方が遺言をした方よりも先に亡くなっているため,この封筒裏面の記載の意味とこのことが遺言の有効性にどのような影響を与えているのかが問題となっています。

 「相続をさせる」相手が先に亡くなっている場合には,その方に「相続させる」部分は意味を持たなくなるので,遺言でどのようにさせるのかが指定されていないということで,通常通りの相続がなされるのが原則(別になされるとの遺言の記載があればその内容によりますし,記載がなくとも別に解釈する理由があればその通りになります)です。このケースで問題となっているのは,遺言全体が無効となるのかどうか(無効となれば,法定相続分・修正要素があれば修正に従っての相続になります)という話になります。

 

 結局は,遺言書の封筒に記載された内容がどのような意味を持つのか,体裁や内容,遺言がなされた経緯などから見てどのような意味を持つのかの解釈が問題となっています。

 判決では,遺言内容を記載した書類が封筒に入れて封印されたことやその封筒の裏側に場合分けが記載されていること・作成の経緯やそこから見た作成の動機などを考慮の上,結論から言えば,封筒の記載内容(配偶者よりも遺言をした方が死亡した場合)が遺言の内容となるとし,配偶者が先に死亡したことで遺言の効力が失われた(配偶者が遺言をした方よりも先に死亡した場合には効力を失うという趣旨)と判断しています。この遺言では,明確に配偶者が先に死亡した場合に遺言が失効する旨の記載がされているわけではないため,争いになっていますが,1審・2審ともに本件のケースでの封筒や内部の文書の記載や作成の経緯・同期などから,失効する旨が示されているといえるとされています。

 

 遺言の解釈が問題となる場合には,作成の経緯や動機,封筒を含めた全体の体裁や記載内容等から見て判断するというのが裁判例の傾向です。とはいえ,ケースごとの事情になりますので,はっきりしたことが言えない点はあります。後で問題にならないようにするには,失効する場合などがどうなのかを明確に定めた方がいいということになります、ただ,有効性が問題になる場合に,記載内容をどう考えるのか一つ参考になるケースとは言えます。

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