法律のいろは

親の面倒を見ている相続人が出金したお金について,他の相続人はどこまでお金の請求ができるのでしょうか?

2022年5月20日 更新 

 相続人の一部が亡くなった方(親のケースが多いように思われます)の面倒を見て,任意後見契約などが存在しない場合を含めて預金の出金などを行っている場合に,その金額が大きければ不明出金として,相続した部分のお金について請求が問題となる可能性があります。出金の存在や亡くなった方のための支出でないとした場合に遺産分割の場で解決を図ること自体もありえますが,根拠のない出金として請求を行うこともありえます。今回は比較的最近の裁判例(東京地裁令和2年12月10日判決LEXDB25586509)では,亡くなった方の配偶者が他の相続人である子供に行ったお金の請求について判断をしています。今回はこの裁判例について触れていきます。

 

 判決文での事実認定によれば,いわゆる後妻による前妻の子どもへの請求へのようです。実際の請求では,引き出したお金の請求以外の部分もありますが,こちらのみ触れていきます。預金の引き出しについては誰が管理や引出をしていたのかという事実関係自体が争いになることもありえますが,このケースではその部分は争いがなく,預金の引き出しについて亡くなった方本人の同意があったのかどうか・同意がなくとも,本人の為に使うもの,その他本人が同意を行っただろう状況であるのかといった点が争点になっています。これらの争点はお金の引き出し関連の同様の問題では同じように争点となる可能性があります。

 亡くなった方御本人が同意を行うには,財産管理を事実上してもらう段階でも一定の判断能力があるといえるだけの健康状態・認知状況がある必要があります。基礎となる事実関係はこの場面でも当時の医療記録や介護記録などから,意思疎通をどの程度行うだけの状況であったのか・認知症かどうか・行動面の問題状況などを踏まえて考えていくことになります。

 亡くなった方御本人が同意をしていない場合(財産管理を任せていない場合)であっても,法律上「事務管理」と呼ばれる,特に管理を行う義務や権限がなくとも行った事柄について,亡くなった方の利益になる場合には意味を持つかどうかが問題になります。

 

 問題となったケースでは,亡くなった方が脳梗塞や脳出血の影響で,意識障害や言語障害が存在し意思疎通が困難と判断できる事実関係が存在する場合に,ジェスチャーなどで一応のやり取りができたとしても,預金からの出金や支出について判断できるだけの状況ではなかったと判断しています。ここでは,医療記録や介護記録などからの病状や状況的に見て意思疎通やお金の管理をできたといえるだけの状況かを判断しています。

 そのうえで支出のうち,亡くなった方御本人のためのお金として支出されたのかどうかを判断しています。これは,このケースでの請求は権限のない支出を行うことで支出側に利益が出て,その分請求を行った相続人(亡くなった御本人)に損失が出た必要があるためです。亡くなった御本人の利益になるための支出は権限や義務のない財産管理(事務管理)として意味を持つことになるため,そう言えるのかどうかは重要な話となるためです。実際の生活費や医療費その他の費用がどのように支出されていたのかという話(その費用がお金の管理をしていた相続人の方が支払いをしていたのか)というところになります。証拠から示されればそれで話は終わりますが,このケースでは亡くなった方御本人が入所していた介護施設での費用に困った形跡がないことから,適正に亡くなった方御本人の為に支出された部分があるものとして,一定割合は原因のあるお金の支出であると推認しています。推認には亡くなった方御本人の資産規模や管理機関なども考慮していますので,推認の根拠となる事項は管理に関する事情全体から見てということになるものと思われます。

 

 実際の請求では請求側も法定相続人に沿った損失部分しか請求できないこともあります。お金の管理状況なども踏まえてどうなるのかを考えておく必要があります。

 

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