法律のいろは

単純承認によって相続放棄の効力が問題になる場合に,亡くなった方の納税義務も引き継ぐのでしょうか?

2022年5月24日 更新 

 亡くなった方の相続に関して引き継がない(相続人でないことにする)手続きとして相続放棄という制度が存在し,その効力が生じない場合として単純承認というものが法律上定められているという話は別のコラムで触れています。ここでの相続人でないことによって引き継ぎを行わないものに亡くなった方の納税義務(税金を納めるという意味で負債を負っています)が含まれるのか・実際どういう場合に問題になるのかについて,比較的最近の国税不服審判所での手続き(裁決,国税不服審判所令和2年4月17日採決・LEXDB26013056)を踏まえて触れていきます。

 

 まず,納税義務の引継ぎは国税通則法という規定に定めがあり,相続に関しては民事上の相続のルールと変わりません。そのため,相続放棄をうまく行える(期間制限を超えた・単純承認となる)場合には引継ぎを行わないことになります。ただ,相続税の課税対象となる多くは遺産に含まれるのかどうか問題になる財産がある・それが問題となる処分行為や隠匿行為になるのかどうかが問題になれば,税務調査の段階だけでなく不服申し立て(国税不服審判所の手続き)等後の段階で争うのかどうかも出てきかねません。

 

 単純承認とみなされるかどうかが問題で,相続財産の隠匿行為や処分行為が該当するとされています。処分は一般に相続放棄の手続きが終わるまでに行われたものに限られます。相続放棄の手続きが終わるまでに行われることで,放棄ができない承認(引き継ぐ)という事柄が確定するためです(古い判例にも同様の趣旨を述べるものがあります)。隠匿などは法律上相続保茎の手続き後であっても駄目であるとされています。

 先ほど言及した裁決においては,亡くなった方が得ていた報酬が支払先の代表者を経由して最後の数か月相続人の口座に支払われていたものです。亡くなった後の口座への支払い・口座からの相続人の引き出し・その相続人から支払いをしてもらった支払先への代表者への返金が「処分」になるのかという点が問題になっています。そのうえで,購入の際に相続人の方自身がお金を支払ったとはいいがたく当初買主が別人とされた不動産について,名義が相続人とされており,この不動産が遺産に含まれるのかどうか・含まれる場合には,別名義でおいたことが「隠匿」に該当するのかも問題となっています。後者については,財産が実質亡くなった方の財産と言えたのかどうか(贈与をしたかも含む)・名義隠しという隠匿行為を相続人が行ったといえるのかどうかが問題になります。

 

 このうち,報酬は遺産に含まれるでしょうから(亡くなった方に対する報酬のため),この部分を使ったといえるならば処分とは言えます。ただし,相続放棄前である必要があります。先ほどのケースで,支払者が代表者を介し,亡くなった方ではなく相続人の口座へ支払うのであれば,そこには亡くなった方自身の了解・委託があるはずです。そのうえ,相続人が関わっていないことからすると,ここが「処分」というのは無理があるものと思われます。相続人の口座からのお金の引き出しは,基本は自分のお金の引き出しになるため「処分」というのは難しいでしょう。この点で,亡くなった方の口座に相続開始後にお金を引き出してお金を使う・自分の口座に移しお金を使う場合とは異なります。ただ,相続人の口座の残金がこの遺産分程度の場合には,引出は処分につながる可能性もあります。引出だけではお金を使いやすい状況にはなりますが,使ってはいませんので,これだけをもって処分ということはできないでしょう。

 ただ,お金を引き出した場合には,使っていないのであればどこにあるのかを説明できない限りは,使っていない・処分していないというのは信用性に問題が出てきかねません。何の目的もなく引き出すことは考えにくく,隠すか使うかの目的があるのが通常と考えられるためです。

 

 不動産の所有者が誰であるのかは,その購入契約の契約者が誰であるのかという問題とリンクします。裁判例の中には購入資金を出している方の所有とするのが通常であるとして,購入資金を出した方が契約者・所有差であるとするものが存在します。登記の名義人は一応所有者である蓋然性が高いので(何もなく所有者以外を名義人にすることはないため),名義人が所有者と一応推測されます。そのため,争う側が実際は異なること・名義人が所有者でない可能性があることの可能性を示す必要があります。

 ただ,ここで所有者・契約者が決まっても贈与を名義人にしていれば,名義人の所有となります。贈与をしたというのであれば,もらた側と送った側双方がその認識をしていることが必要です。その裏付けが存在するのかどうかの問題がありえます(書面が存在するのかどうか・贈与税の申告の有無など)。税金申告をしていないだけで贈与が存在しないというわけではありませんが,整合する事柄の存在は必要と言えます。また,仮に贈与が存在しない場合に,どういう理由で名義が別人なのかが問題になりますが,仮にもらったとされる名義人(このケースでは相続人)が名義を持っている事実を認識していないならば,そもそも隠匿とは言えないということになります。

 

 実際には,このケースでの採決の判断では今述べた趣旨と似た話・お金を返金した行為は相続放棄の手続き終了後の行為として,いずれにしても「処分」とは言えないと判断しています。次に,不動産の名義と遺産かどうかという点は,名義人が所有者であると推認されるところ,お金の動きから遺産という可能性をうかわせないからという理由(要は十分に反証されていないため)から,隠匿の前提を欠くとしています。結論として,相続放棄によって,納税義務の引継ぎはないとしています。

 このケースでは,相続放棄の効力がないことを前提に,相続人の財産を税金滞納が続くことを理由に差押え⇒差し押さえへの不服申し立てがなされています。実際上,処分という可能性があるのは,お金を引き出して使ったのかどうか・不動産の所有者が誰かをお金の流れなどから示すとともに名義人が名義を盛った経緯からどうなのかという点かと思われます。

 財産の名義と購入資金の流れ・お金の引き出しや使途は他の民事問題を含めて問題となりますので,注意が必要でしょう。

 

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