法律のいろは

株式の引継ぎ・相続での問題点と注意点とは?

2022年6月2日 更新 

 一族で経営している会社の経営の引継ぎには,経営を行うのには株主が議決権で決定を行い役員もこの議決権を持っていないと簡単に解任されることから株式の引継ぎをどうするのかが問題となります。中小企業は通常株式の譲渡が制限され(定款で会社の承認を要求しているケースが多く,そもそも株式の取引がされていない),その評価に問題があることもあります。株式の評価自体は本来は収益や純資産・配当等を使って行う方法が種々存在しますが,相続対策などで見かける相続税評価(財産評価基本通達による方法)を意識することが多いものと思われます。

 また,特例措置(適用期間に注意が必要です,また事前の備えるものも必要です)を含めた相続税や贈与税の猶予や免除の制度を指揮して生前贈与などによって後継者(後継者は特例制度では3人いないでいいとされていますが,株式等の集中や経営への関与などが必要とされています)への株式の集中が重要となっています。特例制度の場合には,雇用維持の要件が必要になるのかどうか・免除や猶予の対象となる場合が異なることになります。

 

 ここで株式の集中をどのように行うのかが問題となってきます。遺言で後継者に集中する方法や生前贈与を行う方法,民事信託を行い別の方に管理をゆだねる方法等が考えられます。先ほど触れた相続税や贈与税の対策としての集中(風俗業を営む会社や資産管理会社など適用ができない場合がありますし,特例のためには期間や都道府県知事の認定等を得る必要があるなどの点での注意があります)は重要なところです。このほか,問題点や対応策については別のコラムでも触れていますが,古くからの名義株(実際には出資はしていないが株主名簿あるいは法人税申告書別表2に記載のある方)が存在する場合の対応も問題となります。

 名義株については,出資の記録が残っておらず先ほどの資料からは株主として見える場合には,出資がないことの根拠がない限りは株主である蓋然性が高いことになります。この場合は先代経営者の持っている株式の生前贈与だけでは問題が解決しない可能性があります。相手方(名義株主)と交渉し,株式を集める必要があります。買取となることもありますが,仮に譲受ができたとしてもその金額によっては贈与として扱われることで,贈与税がかかる可能性があります。代金があっても特に相続税評価額から見て金額がかなり小さい場合にはそのリスクが高くなります。

 

 買取に応じてもらえない場合には,株式の併合などスクイーズアウトと呼ばれる方法(簡単に言えば,株主の地位から追い出す方法)を考えることになります。主なものとして,会社側が一定の場合に強制的に取得できる種類の株式を設ける・90%以上の株式を持っている方が買取を会社に求める・株式併合を行う,というものが存在します。詳しくは別のコラムで触れていますが,複数の種類の株式を設けるにはハードルが存在します。株主総会でにお必要な議決権のハードルが上がり,トラブルリスクがあるのであればきちんと株主総会を行う必要があります。2番目の方法は既に大半の株式を持っている必要があります。3番目は,株式の単位を小さくして,1株に満たない株主をつくる(株主ではなくなる)形にするもので,事前の書類備えおきなどの規制が存在します。株主から追い出すこと以外に確たる理由がない場合にこの方法を行うための株主総会の決議が取り消されるかどうか(無効になるのかどうか)が争われた裁判例も存在するところですので,効力をひっくり返されるリスクも考慮して慎重に対応をする必要があります。

 

 このほか,生前贈与などで株式を集中する場合には,遺留分の問題があります。現在は遺留分侵害額請求という遺留分侵害の場合の請求を受けても,株式が共有になることはありませんが,支払いができないと株式等を差し押さえられる可能性があります。法令上の遺留分の特例の活用を検討する・遺留分侵害は相続開始前10年以上前であれば現在の規制では,贈与側・受け取る側に遺留分侵害の認識がある場合が対象になるので,対象になるのかを検討する・遺留分侵害の対応の資金の準備をする(遺言・保険での対応等)等の方法が考えられます。

 節税もかねて社団法人の活用など様々なスキームが存在しますが,これは別途触れていきます。

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